M   66

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 混雑した駅の改札を抜けたら、慎はまたオレの肩を抱いた。  大型のディスカウントショップは、西口を出て少し歩いた所にあるビルで、その周りは飲食店とかもいっぱいある。 「花火どこだろ。物多すぎて分かんねーな」 「ここ、ごちゃごちゃも売りって感じだもんね」  ハデなポップがいっぱい貼られた店内を見て回って、花火のコーナーを見つけた。  手持ち花火のセットとか、家庭用の打ち上げ花火とか、まだ初夏なのにもういっぱい出てた。 「うわー、迷うー。ね、ね、慎、どれにする?」  慎のTシャツの裾をつまんで揺らしながら訊いたら、慎がにこって笑ってスッとオレの耳元に顔を寄せてきた。 「翠里が可愛すぎて考えらんない」  ボソッと低い声でそんなこと言うし…。  でもそんな風に嬉しそうにされると、ほんとにずっと好きでいてくれたんだなぁって分かる。  うれしい 「じゃあね、色変わるやつがいい。あと、長ーくやれるやつと、線香花火も!」  慎のTシャツの裾をつまんだまま、花火セットを見比べた。 「これは? 今翠里が言ったやつ全部入ってるよ。そんな高くないし」 「ほんとだー。じゃ、コレにする?」 「あ! やっぱり間宮くんと田処くんだー」    カラフルな花火セットを一つ手に取った時、後ろから女の子に声をかけられた。  びくっとして振り返ると、同中だった野中(のなか)さんと鈴木(すずき)さんと井上(いのうえ)さんがいた。慎が少しだけ身体を捻って後ろを見た。3人の視線が一斉に慎に向かう。  うわ、みんな目ぇキラッキラ!  そうだ、この3人って確か…。  中1のバレンタインに慎にチョコ渡そうとしてた。3人一緒に。  帰ろうと思って慎を探してて、うっかり見ちゃって慌てて隠れた。  井上さんは小学校も一緒だったから、小4から小6までオレもチョコもらった。  井上さん、オレらのグループ全員にチョコくれてた、3年間。  本命は慎だったのかーって、その中1の時に思った。 「あー、花火やるの? いいなー、あたし花火好きー」 「あたしもあたしも〜。ね、一緒にやろうよ、みんなで」  野中さんと鈴木さんがちょっと近付いてきて、慎を見上げてねだるみたいに言う。  なんかやだ 「どこでやるの? 公園って花火オッケーだっけ?」  野中さんがキレイにメイクした長いまつ毛をパチパチさせながら慎を見つめてる。 「うちのマンションの中庭でやるんだけど、住人じゃなきゃダメだからごめんね?」  慎が、キツくはないけどはっきりした口調でそう言って、3人を流し見た。  3人が目を見張って慎を見つめてる。その頬がみるみる赤くなっていく。 「そ、そうなんだ。マンションの中庭でできるのいいね、うらやましい。あ、ほら、ね、映画そろそろ行かなきゃ」  井上さんがスマホで2人に時間を見せながら、野中さんの腕を引いた。  ロック画面はピンクのマーガレット。  井上さんがちらっとオレの方を見て「あれ?」って顔した。 「なんか…翠里くん可愛くなったね。元々可愛かったけど」 「え…っ?」  井上さんは保育園から一緒だったからオレを名前で呼ぶ。オレも小学校までは(なぎさ)ちゃんって呼んでた。    井上さんはにこっとしてから、野中さんと鈴木さんの腕を引いて歩き出した。 「ほらほら2人とも行くよー。もうチケット買っちゃってるんだから。間宮くん、翠里くんまたね」 「やーんっ。もっと間宮くんと喋りたかったぁ」 「今度遊び行こーねぇー」  井上さんに引っ張られながら、野中さんと鈴木さんは慎を振り返り振り返り歩いて行って、角を曲がって見えなくなった。 「遊びになんか行かねーよーだ」  そう、ボソッと慎は言って、オレを見下ろした。 「な、翠里」  う わ  なんか、昨夜のベッドの上の慎みたいな、色っぽい目線。  胸がざわざわする。 「…うん」  その顔、他の人に見せないで
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