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M 67
「それと、あと他にも買う? 翠里」
「ううん。いっぱい入ってるからこれだけでいいかな」
「ん、オッケー」
2人でレジに向かう間にすれ違った女の子も、慎を見てた。
少し、慎と距離を詰める。大きい花火の袋を両手で持ってるから、慎のTシャツを掴んだりはできない。
だいたい半分ずつお金を払って、花火は慎がバッグに入れて持ってくれた。
「あ、翠里。ちょっと待って」
「え?」
ドラッグストアみたいなコーナーで慎が立ち止まった。
「そうだな…。ここでシャンプー見てるフリしてて」
「え?」
なんで?
「いいから、な?」
「慎?」
「ここにいて?翠里。で、あんまこっち見ないで」
にっと笑った慎が、シャンプーの棚と向かい合わせの棚の端っこの方まで歩いて行った。
見ないでって言われると、見たくなっちゃうじゃん。
言われた通りシャンプーを見てるフリをしながら、横目で慎を見る。慎は少し屈んで棚の商品を見ていた。
長方形の箱?
なんだろ。ていうか、なんで一緒に見ちゃいけないの?
でも完全に隠す訳でもない。
「あ、ねぇねぇ。あたしシャンプー見たーい。今の飽きてきちゃってぇ」
女の子の声がして、咄嗟にシャンプーに目を戻した。
甘い香りを振り撒きながらやって来たその子たちは、さっきの井上さんたちよりメイクも髪型もハデで、肩とかお腹とか出たカラフルな服を着てる。ちょっと苦手。
「私はねー、今これ使ってるよー、っていうか、ねぇ」
「え? なになに?」
その3人の女の子たちが、慎のいる方向を見た。女の子のグループって3人が多いの、なんでなんだろ。3人が目を見合わせてる。
「イケメンがゴム買ってる」
え?
「そりゃ買うでしょ。彼女いるでしょ、あんなカッコよかったら」
「えー、いいなぁー。抱かれたーい」
え? え? え?
「あ、2つ取ったよ、やだぁ」
「一箱で結構入ってるよね、何回するのー?」
ゴム…って、あれ、だよね?
かぁっと顔が熱くなってくる。
ポケットの中でスマホが震えて、びくっとして画面を見た。
ーーレジ終わったから下りエスカレーターのとこまで来て。
慎だ!
ドキンッと大きく心臓が跳ねた。密かに深呼吸を繰り返しながら『了解』のスタンプを送った。
下りエスカレーターってどこ?
きょろきょろと上方を見回して、矢印を見つけて進んだ。しょっちゅう来る店じゃないから、っていうか、いつも慎に付いて歩いてるだけだから覚えてない。
角を曲がって慎が見えたらホッとした。出先でこんなに慎と離れること、あんまりないから。
オレを見つけた慎が、周りをちらっと見渡してからオレに近付いた。
なんで?
「ごめんな、翠里。迷わなかった?」
エスカレーターに先に乗った慎が、オレを振り返る。
「うん、大丈夫。でも…」
エスカレーターの、一段下に乗ってる慎がオレを見上げた。
「…翠里、顔赤くなってる」
「だって…」
俯いて顔に手を当てたらすごい熱かった。
「まあ、あけすけな話っぷりだったもんな、あの子たち。ちょっと離れてた俺まで全部聞こえてたし。だからさ、お前と合流すんの見られたらまた何か言われるかもって思って」
「あ…」
見上げてくる慎の眉間に少し皺が寄ってる。
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