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M 68
「ほんとはさ、外で翠里と離れんの嫌なんだよ。この前みたいなこともあるしね」
エスカレーターが終わりに近付いて、慎がスッと高くなっていく。先に降りた慎を追いかけたら肩を抱いてくれた。その腕でぐいっと抱き寄せられる。
「翠里は可愛いから」
耳元でこそっとそんなこと言われたら、顔熱いの戻んないよっっ
それに…
「俺が買った物のことは帰ってから、な?」
「…っ」
ふふって笑いながら流し見られてドキドキした。
やばいっ、別のこと、別のこと考えようっ
じゃないと昨夜のこととか思い出しちゃって身体が…っ
「翠里、昼何食べる? まだ腹減ってないなら古本屋で立ち読みでもする?」
「あ…えっと…」
「ん?」って訊いてくれる慎は、今度はめちゃくちゃ爽やかな笑顔を浮かべてた。雑誌の表紙を飾ってるアイドルみたいだ。
「古本屋、行く」
「オッケー。エレベーター乗れっかな。いっつも混んでるよな、あそこのエレベーター」
「うん」
慎、話題変えてくれた。
ていうか表情の使い分け、すごい。しかも全部格好いい。
エレベーターはやっぱり混んでて、エスカレーターを使って昇った。振り返って慎を見下ろしながらマンガの話をしてたら、ちょっと落ち着いてきた。
お腹が空いてくるまで、2人で並んで立ち読みをした。女の子がしょっちゅう通るから、途中から慎が持ってるマンガを横にぴったりくっついて覗き込んだ。
慎の方が読むのが速いから、オレが読み終わるのを待ってくれる。オレは終わったら慎を見て、慎はその度ににこっと笑ってページをめくる。
すっごい贅沢な気分。
後ろを通る女の子たちが「笑った笑った」ってはしゃいでる声を聞きながら、オレはこっそり慎のTシャツを掴んだ。
オレの
読み終わったマンガを閉じた慎のTシャツをくいくいっと引っ張って、ちょっと背伸びをする。
「おなか空いた」
すっごい甘えた声になったのが自分でも分かった。
「ん、オッケー。何か食おっか」
慎がふふって笑う。
マンガを棚に戻した慎に肩を抱いてほしくてくっついた。慎は当たり前な顔をしてオレの肩に腕を回した。オレも慎の腰に腕を回した。
「何食いたい? 昨日はバーベキューでハンバーガーして、夜はチャーハンで、一昨日はパスタ食ったよなぁ」
「そう言えば、一昨日の夜から朝ごはん以外ずっと一緒だよね」
なんか妙に照れくさい
「だな」
慎が少しオレを抱き寄せた。
「朝も一緒に食えたらいいのにな」
慎、声甘い…
「…うん」
「やっぱかわい」
ふふって笑って覗き込まれてドキドキした。
お昼はチェーンの牛丼屋にした。安いし早いし、何より牛丼屋は女の子が少ない。
まあ、あんまりゆっくりはできないんだけど。
カウンター席の隅っこが空いてたから並んで座った。
「明日学校タルいなー」
牛丼を食べながらボヤいた慎の方をちらっと見た。
手がおっきいから難なく丼を持ち上げてる。その手の甲の骨の出方が格好いいとか思っちゃってるオレは、頭ん中かなりピンクになってるんだと思う。
オレは丼に手を添えて食べてる。丼は大きいし、重いし、熱いし持てない。
左手の人差し指の絆創膏はまだ貼ったままだ。
「繋げて休みにしちゃえばいいのにね、会社みたいに」
「だよなー」
そしたら慎とべったり一緒にいられるのに
「この後どうしようか。どっか行きたいとこある? 翠里」
「んー…」
慎と一緒ならどこでもいい、けど…。
できれば、邪魔の入んないところで喋ったりしたい。
女の子たちにチラチラと慎を盗み見られないところ…。
オレだけが、慎を見られるところ。
「ん?」ってオレを見た慎を、じっと見返した。
「…かえりたい…」
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