M   70

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M   70

「…いつも通りに、な? 翠里」  慎がゆっくりと腕を離しながら言った。  うん、ってまた頷いて、ごくりと唾を飲み込んで、鍵を開ける慎の大きな手を見つめた。 「ただいまー」  すごい。ほんとにいつも通りの声だ、慎。  スニーカーを脱いで家に上がっていく広い背中に付いていく。 「お、おじゃましまーす…」  やばい。声ちょっと震えた。  ガチャッとドアの開く音がしてびくっとする。リビングとの間のドアが開いて祥子さんが出てきた。 「あらおかえり。早かったのねー」 「どこ行っても混んでたからさ。昼食って帰ってきた。この後は翠里とゲームするから放っといて」 「はーい、りょーかーい。翠里くんゆっくりしていってね」 「はい…っ」  緊張する 緊張する 緊張する…っ  部屋のドアを開けて入っていく慎の背中にくっつく勢いで追いかけて、中に入ったら慎が素早く、でも静かにドアを閉めた。  カタン、と鍵をかける。  そしてオレを力いっぱい抱きしめた。 「…あー…もう…っ。なんでそんな可愛いんだよ翠里…っ」  掠れた声が耳元で響く。 「慎…」  オレも慎をぎゅっと抱きしめた。 「可愛い顔して可愛い声で可愛いこと言うし…。あんな「だめ?」聞いて断れるわけねぇだろ」  慎の大きな手のひらが、頭を背中を撫で回す。  熱くて気持ちいい 「…だって、慎と2人になりたかったから…。そ、外だと、女の子が慎のことすごい見てくるし…」  慎のTシャツを握りしめていたら、長い指がオレの頬を撫でた。  そして顎のラインを撫で下ろしていって、くいっと持ち上げられる。  あ… 「…ごめんな? 意志が弱くて…」  慎がオレをまっすぐに見下ろす。 「親いるけどちょっと…、も、無理…っ」  呟きを唇に吹き込まれた。慎の声、全部飲み込みたい。  昨日覚えたばっかりのキス。唇を開いて、舌を絡める。  人の唇がこんなに柔らかいとか、舌の表面はザラザラしてるとか、改めて知った。  でもなにより。  慎に口の中舐められるの、すっごい気持ちいい  やめたくない ずっとしてたい このままずっと…  慎の舌がオレの口角をくすぐるように舐めて、出ていってしまった。  ちゅって音を立てて唇を離される。口の端を流れた唾液を慎が唇で拭った。 「…このへんでやめとこうな、翠里」  やだ…  優しいおっきい手が頭を撫でてくれる。それはすっごい嬉しい。…でも。 「…うん…」  キス…もっとしたい  …キス、だけじゃなくて、もっと…  さわってほし… 「…翠里?」  慎のTシャツを掴んで、腰を引いて広い胸に顔を埋めた。  恥ずかしい  でもでもでも…っ  これ、どうしたらいい…っ?  顔隠すのにくっついたら慎の匂いするし…っ  これじゃ全然収まんないよ…っ 「…やめとくの無理、だったりする?」 「…っ」
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