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Sin 75
中学の頃、放課後に呼び止められるのが嫌だった。
「間宮くん、ちょっと」
カバンを肩にかけようとしたところで声をかけられた。
声のした方を向いた時、その俺を呼んだ2組の谷口の向こうに翠里が見えた。彼女の横を通って、翠里は俺のクラスに入ってきた。
「間宮くんさ、これからちょっと屋上の入口に行ってよ。莉子がいるから」
谷口は隣のクラスのクラス委員長で、俺もそうだったから、まあそれなりに話をしたりしていた。
翠里が俺と谷口を交互に見て、そして俺のすぐそばで立ち止まった。
「つか俺、その莉子って子、知らねぇんだけど」
「3組の中山莉子よ。あたしの友達なの。すっごい可愛いから、細くて。だから行ってあげて?」
って言われても知らねーし
「いや、あの困るんだけど、そういうの」
俺は翠里と今すぐ帰りたいんだっつーの
「慎、オレ待ってるよ?」
翠里が俺を見上げて言った。いつも通りの笑顔で。
「ほら、田処くんもそう言ってるし、間宮くん!」
なんで好きなやつに見送られて、顔も知らないやつの告白聞きに行かなきゃなんねんだよっ
毎回泣きたい気持ちで呼び出しの場所に向かった。
そしてはっきりと、でも傷付けすぎないように気を付けながら告白を断った。言い方を間違えるとキレられたり泣かれたり、余計に面倒なことになる。
とにかくさっさと終わらせて、翠里のところに帰りたかった。
*
「んじゃ明後日行こうぜ、映画。午前? 午後?」
「朝イチとかじゃなかったらいいけど」
「つか何観んの?」
「おれ、スカッとするアクションとか観たい」
昼休みの教室。俺と翠里は今日は親の仕事が休みで、余裕があるから弁当だ。大田と絢一は購買でパンやおにぎりを買ってきていた。
「アクション系かー。洋画? 邦画?」
絢一が焼きそばパンを齧りながらスマホを操作している。
「あー…、どっちでもいいけど字幕はダメ。ムリ」
大田が絢一のスマホを覗き見て言った。
「あ、オレも字幕よりは吹き替えがいい」
そうそう、翠里読むの速くないから字幕苦手なんだよな
「アクションでー、字幕じゃないやつー、ってこれとか? マンガ原作のやつ。若手のイケメン俳優がいっぱい出てる」
絢一が机にスマホを置いて、話題のヤンキー映画を指差した。大田がうんうんと頷く。
「いんじゃね? おれ原作読んでるよ」
俺と翠里は昨日古本屋で立ち読みした。ちらっと翠里を見たら、翠里も俺を見てて目が合った。
なんかすげぇ照れくさい
「じゃーこれにすっかぁ」
そう言って頷いた絢一が、残りの焼きそばパンを頬張った。
よく喉に詰まんねぇな
時々心配になる。絢一の食い方見てると。
「今日明日のガッコがなぁ。タルいよなぁ」
大田がツナのおにぎりのフィルムを剥がしながら言う。
「なー。小中の時とか来てないやついたよな。親と旅行とかで」
「いたいたー」
翠里が黄色い玉子焼きを箸でつまんであははって笑った。
それだけでめちゃくちゃ可愛い。
昨夜は久々に1人で、ベッドが広く感じてなかなか寝付けなかった。
翠里がいた夜に、可愛いことされて寝られねぇって思ったけど、規則正しい寝息は心地いい眠りに誘ってくれてたんだって気付いた。
毎晩抱いて寝たい
毎朝寝ぼけた可愛い翠里が見たい
俺の翠里
やっと手に入れた
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