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S 77
ずーっと喋りながら歩いて床屋の辺りまで来たら、ちょうど客が帰るところで店主が見送りに出てきていた。
「お、おかえり、翠里くん慎くん。相変わらず仲が良いな」
「ただいまー」
翠里は「えへへ」って笑いながら手を振ってた。俺は会釈をする。
「慎、今日はうち来て?」
制服のベストの腰の辺りをくいくい引っ張りながら翠里が言った。
「いいよ。じゃ、着替えたら行くから」
エレベーターの3階と4階のボタンを押す。
「誰もいなかったら一緒に慎ん家に行って、着替えんの待って帰るのになぁ」
エレベーターは2人っきりだったから、翠里が俺に抱きついてきた。俺もぎゅっと抱きしめ返す。
かわい…
「めっちゃ急いで着替えてくっから、ちょっただけ待ってて、な?」
防犯カメラに背を向けて、丸い頬に軽くキスをした。
「…うん」
エレベーターが3階に着いて翠里が降りた。閉まっていくドアの向こうでバイバイって手を振ってた姿が可愛かった。
4階に着いて速歩きで家に向かって、でも家に入ったら怪しまれないように普通に動いて、自分の部屋に入ったらまた大慌てで着替えた。
外階段を降りながら翠里にメッセージを送ったら、翠里は玄関ドアをちょっと開けて待っていた。俺を見上げてにこっと笑う。
すげぇ可愛い
「入って入って」って急かされて翠里の部屋に入った。翠里がドアに鍵をかけて俺の胸に飛び込んでくる。
「…1日、長すぎ…っ」
「だなー…」
ぎゅうぎゅうと苦しいぐらい抱きしめ合って、見つめ合ってキスを交わした。
翠里の細い手が背中を辿るのが、少しくすぐったい。
「…ね、ね、慎…」
キスの合間に、少し掠れた声で翠里が俺を呼んだ。
「ん?」
唾液の流れた口元を拭ってやりながら潤んだ瞳を覗き込む。
「…ベッドに、慎の匂い、つけて…」
「え…」
「1人で寝るの、さびしいから…だから…」
翠里が俺を引っ張ってベッドまで連れてきて、座ってって感じで両手で肩を押さえた。ベッドに腰掛けたら、少し勢いをつけて翠里が抱きついてきて、支えきれずに後ろに倒れた。翠里を身体の上にのせたまま抱きしめる。
俺の上で翠里がもぞもぞ動いて、俺の両脇に腕を突いて覗き込んできた。
「…慎だいすき…」
照れくさそうな甘ったるい声で翠里が言った。
「俺も、翠里のこと大好きだよ」
笑った形の赤い唇が近寄ってきて俺に口付ける。
可愛くて可愛くてどうしたらいい?
幼馴染みの翠里もすっげぇ可愛かったのに、恋人になったら桁違いだ。
死ぬほど幸せだ
って妙な日本語だな、とか思いながら翠里を抱きしめて、体勢を入れ替えて翠里を見下ろした。
細い腕が伸びてきて首に絡まって、引き寄せられるままに唇を重ねた。
そうやって、タイムリミットまでずっと俺たちは、抱きしめ合ってキスをして触れ合っていた。
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