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S 79
「オレはねー、追いかけ玉入れに出るよ」
放課後になって、今日もうちのクラスに飛び込んできた翠里が言った。
「翠里、リレーとか出ねぇんだ。足速いのにな」
絢一が意外そうな声で言った。俺もそう思う。
「うちのクラス、陸上部の短距離のやつが3人いてさー。その3人でリレーとスウェーデンリレーどうするか決めたから。みんなは?」
「おれも玉入れ出る。あとリレーな。で、大田が障害物で、慎は借り物とスウェーデンリレー」
絢一がニヤリと笑った。
「えっ、すごい! 慎スウェーデンリレー出るの?! 絢一はリレー?! 2人ともすごいじゃん!」
翠里が俺の腕を掴んで揺らしながら、「すごいすごい」って嬉しそうに言う。
「あ、てことは慎と絢一は放課後練習なんだ。わー、楽しみー」
相変わらず俺の腕を揺らしながら、翠里が笑顔で言った。
「なんで楽しみなんだ?」
「だってほら、慎も絢一も走んの速いけど部活とかやってないじゃん? だからあんま全力で走ってるとこ見れないし」
「じゃあ田処は、放課後練習見に行くんだ?」
大田が翠里をちょっと覗き込む感じで訊いた。
「うん、行くよ。だって慎と帰るもん」
ねーって翠里が笑いかけてくる。
やばい 可愛い
にやけないように気を付けながら、うんうんて頷いて応えた。
とりあえず帰ろうってことになって、翠里の肩を抱いて教室を出た。
「体育祭の練習って、ゴールデンウィーク明けてすぐからだっけ?」
「って言ってたと思うけど」
「応援合戦ないんだなー。ちょっとザンネン」
「練習メンドいから、おれは無しでよかったなー」
「確かに」
駅までは徒歩約15分。高校は小高い丘の上にあって、行きは登り帰りは下りだから、帰りは15分もかからない。
大田だけ方向が違うから、改札を通る前に駅舎の隅で一旦みんなで立ち止まった。
「でもよかったー。体育祭、オレだけクラス違うから敵になったらどうしようって思ってたんだー」
翠里が嬉しそうに言った。
「そうだな。敵だったら慎の応援し辛いもんなー」
「うん」
おいおい、翠里。つか絢一っ。
「あっ、あっ、でもっ、絢一の応援も大田の応援もするよ?」
翠里がちょっと焦った顔で絢一を見上げた。絢一は翠里に笑顔を向けて、そして俺をちらっと見た。
「そっかそっかサンキュ。ホントみんな味方でよかったよな。あ、そろそろ行かねーと大田の方の電車が来ちまうぞ」
そう、スマホを見ながら絢一が言った。
改札を抜けて「また明日」って手を振って大田と別れた。絢一を先頭にしてホームへの階段を昇っていく。俺らの乗る電車もじきに来る。
今日は絢一が一緒だから、翠里とこそこそ喋りながらは帰れない。3人で無難な話をして、家の最寄駅で降りた。翠里と並んで歩いて、小学校が見えてきた辺りで絢一と別れた。
隣を歩いている翠里に腕を伸ばすと、翠里はスッと寄ってきて俺の腕の下に収まって、腰に回した手で俺のベストを掴んだ。
「ね、ね、慎。明日お休みだから…」
翠里が俺を見上げてきながらベストを掴んでる手で腰をたたく。
「ん? 泊まる?」
ほんのり頬を染めた翠里が、こくりと頷いた。
可愛いなぁ
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