M   83

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 大田が噛みつきそうな勢いで慎に詰め寄ってる。絢一が大田の肩をがしっと抱いてそれを止めた。 「まあまあ、それはさ、人それぞれ事情とかあるんじゃねぇの?」  あれ? 「てことで何食い行く?」  絢一驚いてないな。普通にスマホ出してお店調べようとしてる。  なんで? 「いやいや、昼飯より今はさ」 「大田」  絢一が肩に回した腕をぐいっと引き寄せて大田を見つめた。  いっつも明るい絢一の、あんま見たことない真面目な顔。  至近距離で覗き込まれた大田がビクッとする。 「そういう話はな、喋ってくれるまで待つのが礼儀。ダチだからこそ、な?」  絢一が大田に言い聞かせるみたいに言った。大田は目を丸くして小さく頷いた。  …なんか絢一、めっちゃ大人じゃん。 「よし! じゃ今日はラーメンにしようぜー」  慎の「好きな子いる」に驚かなかったのは、「そういうこともあるよな」って思ってたから? 「この辺のさ、ラーメン屋が集まってる辺り行ってみるか」  絢一はもういつも通りの絢一に戻ってて、地図アプリでラーメン屋を出して指差した。 「オレ、あんま並んでないとこがいい」  まあ、好きな人がいるって普通だよね、高1だし。 「あー、行列エグいとこあるもんな」  慎ももう普通の顔してる。大田はまだチラチラと慎を見てた。 「どんだけ美味いんだって気にはなるけどなー」  あははって笑いながら、絢一が大田の肩に腕を回して先に立って歩き始めた。  そういえば絢一ってあんな風に友達と肩組んだりしてたっけ? 前。  慎の腕がオレの方に伸びてきて、肩を抱かれて歩き出した。慎の歩調がゆっくりめで、絢一たちとの間が開いてくる。 「…なぁ翠里」  慎がボソッと話しかけてきた。 「絢一、あいつ俺らのこと気付いてるぞ」 「え?!」  思わずおっきい声が出て、手で口を覆った。…今更だけど。  ちょっと離れてるし、周りがザワザワしてるから聞こえなかったのか、絢一も大田も前を向いたまま歩いてる。 「まじで?」 「そうとしか思えねんだよな、言動が。気付いてて、ちょっと面白がってて、でも俺らが付き合ってるのバレないように庇ってくれてるように思える」  あ…  言われてみれば…  さっき大田を止めたのとか、昨日の体育祭の話の時とか… 「…そ…うかも…」 「だろ?」  前を歩いてる絢一たちがラーメン屋の前で立ち止まった。 「…俺らのこと、ちゃんと話さないとな、絢一には」 「うん…」  …話さないといけない、っていうか…  数件のラーメン屋を覗いて、チェーンの店に入った。  ラーメンを食べてる間も、その後ゲーセンに寄った時も、大田はチラチラ慎を見てた。慎はあんま気にしてないみたいで、絢一は「しょーがねーなぁ」みたいな顔してた。  大田とは駅で別れて、3人で帰ってきて、いつもの、絢一ん家への別れ道で立ち止まった。 「今日、ありがとな、絢一」  慎が絢一にそういうと、絢一は「ん?」って顔して慎を見て、それから少し笑って、うんうんて頷いてた。  絢一は気付いてる。  気付いてて、今まで通りでいてくれてる。 「…あ、あのさ…っ」
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