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M 84
慎と絢一の腕を掴んで道の端に寄った。マンションの外壁を向いてる状態。2人の腕を掴んだまま深呼吸をした。
言っとかなきゃいけない、じゃなくて言いたい。
心臓がドキドキ、ドキドキして口から出てきちゃいそうだ。
「あ、あの…オレも…」
声、ちゃんと出ない。震えて変な声になってる。
顔が、全身がどんどん熱くなっていってて、2人の腕を掴んでる手のひらが汗ばんでくる。
「…す、すきなひと…いるんだ…っ」
こめかみがドクドクいってて、自分の声がよく分からない。
「うん?」
絢一がちょっとオレを覗き込んでくる。ドキドキしすぎて視界が潤んできて、見上げた絢一がぼやけて見えた。
でも、優しく笑ってくれてるのは分かる。
「…あのね…オレ…」
ズズッと鼻を啜って、慎の腕を掴んだ手に力を込めた。
「慎がすきなの…っ」
誰にも言えないって思ってた。
言っちゃいけないって思ってた。
「うん…そっか…。いいんじゃね?」
でも言いたかった。
「…い、いつからか、わかんないけど…だいすきなのっ」
慎のことが好きだって、慎もオレのこと好きなんだよって。
誰かに聞いてほしかった。
「うん、そっかそっか。慎、いいやつだもんな。お前ら最初っからめっちゃ仲良かったしなー」
絢一が明るい声で言ってくれる。
「はは…、先越されちまった」
慎がオレの頭をサラリと撫でた。見上げたら、慎はちょっと口惜しそうに笑ってた。
「で、俺はさ、翠里が好きなんだ…。ずっと前から…」
うわ…なんか…
くすぐったい…っ
「だよなー。『細くて元気な子』ってまんま翠里のことじゃん、ってすぐ分かった、おれ」
「マジで?」
慎がびっくりした顔で絢一を見てる。
「まあフツーはさ、好きなタイプって女の子のことだって思うんだろうけど、ずっとお前らのこと見てたおれからするとさ、これは違うぞ、って思ってさ」
絢一がイヒヒって笑った。慎、ちょっと顔が赤くなってる。
「でも当の翠里はぜんっぜん気付かねぇし、だけど『慎はオレの』ってべったりくっついてるしさ。あれ、慎キツいだろうなーって思って見てた」
「…あー…、ちょっと待て絢一、恥ずい」
慎が片手で顔を覆って下を向いた。絢一があははって笑った。
「つか、絢一お前、見てたって…」
慎が指の間から絢一を見てるのが妙に格好いい。
「そりゃだって口出しするわけにいかねーし。てゆーか、放っといても絶対うまくいくって思ってたし。両片想いなわけだからさ。つっても翠里は自覚してなかったから時間かかったよなぁ」
そう言ってまた絢一が笑う。
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