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M 88
ゴールデンウィークが明けて、慎と絢一は放課後に体育祭の練習が始まった。
走る慎も、すっごい格好いい。
予想してた通り、女の子がいっぱい見に来てた。
「やっぱさぁ、カッコいいよね、間宮くん」
でしょ?
「間宮くんてさぁ、彼女いないよね。いっつも男子で集まってるし」
彼女はいないけど恋人はいるんだよね
「あたし頑張っちゃおーかなぁ」
あちこちからそんな囁きが聞こえてくる中、走る慎を見てる。
「…間宮にさ、好きな子がいるって分かったら女子たち大騒ぎだなー」
大田がオレの耳元でボソッと言った。
「うん…」
それ、オレなんだけど
ニヤニヤしそうなのを唇を噛んで耐えてる。
スウェーデンリレーもリレーも、各色選手は男女合わせて12名、それを6名ずつの2チームに分けて、合計8チームで競う。
スウェーデンリレーは女子、男子、女子って順番で、慎の前に走るのはうちのクラスの久保さんだ。彼女は慎にバトンを渡した後、走ってく慎の後ろ姿をじっと見ていた。
「もうね! バトン渡す時に出されてる間宮くんの手がね、おっきくて指長くて、すっっごいカッコいいの!!」
朝一番の予鈴が鳴って自分のクラスに入ったら、久保さんの興奮気味の声が耳に入った。
慎の手…
「それにね、走って行くあたしの方振り返る顔もね、もちろん走る前だからだって分かってるけど真剣な感じでカッコよくってっっ」
久保さん、ほっぺ赤い
「毎日練習とかサイアク!って思ってたけどもうね! サイッコー! 体育祭ずーっと先でもいい。ずっと間宮くんと走りたい」
「一緒に走ってるわけじゃないでしょ」
「バトン渡す何メートルかは一緒に走ってるもん! 並んで!!」
…なんか…やだなぁ…
とか思ってるオレが一番やだ
唇をぎゅうっと噛んで、自分の席で俯いた。
昨夜も、優しくオレに触れた慎の大きな手。
あれはオレのだ
もうちょっとギリギリで戻ってくればよかった。
聞きたくなかった、あんな話。
どこにもやれないモヤモヤが、胸の中でぐるぐるする。
それからも、久保さんが慎のこと話してるのを何回も聞いた。
「あたしにね、笑顔で話してくれてね」とか、その慎の笑顔が嘘笑いなのくらいオレには分かる。
2人でバトンの受け渡しの練習してるのも見てた。
「あたしがね、バトン渡す練習したいなって言ったら、いいよって言ってくれてね」
リレーはバトンが肝心だもんね。そう言われたらいいって言うよね。
こんなことで久保さんに嫉妬してるの、すごい恥ずかしい。
だから慎には知られたくない。
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