S   94

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 久保たち女子3人が顔を突き合わせて何か喋ってる。 「次の次ー、借り物競走出る人ー。そろそろスタート地点に行ってくださーい」  実行委員の声が聞こえた。 「あ、俺行ってくる」  俺が立ち上がるのを翠里が目で追ってくる。その肩にさりげなく触れた。 「あ、あたしも」  3人組のうちの1人が言った。周りもバラバラと立ち上がる。 「半分は『借り人』らしいってウワサだぞー。頑張れよー」  絢一がニヤッと笑った。  あいつ、いつそんな情報仕入れてんだろ。  皆でぞろぞろとスタート地点に向かって歩いて、途中で振り返って席の方を見たら、翠里と久保が俺を見ていた。空は相変わらず白い。    借り物競争は足の速さよりも運だから、出走は出席番号順で、男女混合になってる。練習らしい練習もしてなくて、段取りを確かめたくらいだ。  最初の組が走り出して、少し先にあるテーブルの上の、4色の箱の自分の色に手を入れて中からお題の書かれた紙を引き抜いた。  赤は翠里のクラスの女子からスタート。紙を広げて、周りをきょろきょろ見回して、ハッとしたように一目散に駆けて行った。  そして青い三角コーンを持ちにくそうに持ってゴールに向かって走って行く。  他は、メガネをかけてる人を連れて走ってる男子、黒い水筒を借りて走ってる女子、後で使う『追いかけ玉入れ』で使うカゴを背負って走ってる男子がいる。  ゴールの手前にはマイクを持った2、3年の放送部員がいて、お題の紙を見せるとそれを読み上げて、持ってきた物、もしくは連れてきた人を見てジャッジする。ダメならやり直しだ。  その次の組は『白いタオル』『トイレットペーパー』はオッケー。『三つ編みの人』を連れてった白の男子は「残念! この方編み込みです。もう一回!」って言われてた。  黄色の男子は紙を広げて「うわっ」って叫んだ。それから黄色の応援席の2、3年生の所に走って行って、ぺこぺこ頭を下げながら1人の女子の先輩を連れて、赤い顔をしてジャッジに走った 『えー、黄色のお題は『自色で一番キレイな先輩』でした。はい、お目が高い! 美人ですねー。ゴールへどうぞ!』  …そういうのもあるのか…。普通に『物』が当たりますように。  その次の組は『見た目が怖い先生』っていうのを引いたやつがいて、ジャッジからゴールまで、その先生に微笑みかけられながらビクビクして走ってた。  俺の前の組がスタートした。背の低い女子が「あたしより背ぇ低い人ー!」って大声で叫んでる。校舎の方に大慌てで走って行った男子は、クラス日誌を持って戻ってきた。あとは『リレーのバトン』に『日焼け止め』。  校舎ん中に入って取って来んのも面倒くせぇなぁ…。 「はい、次の組、位置についてー」  できればグラウンドにある物で!!  そう祈りながらスタートのピストルの音を聞き、走り出した。  赤い箱の中に手を入れる。中身はもうそんなに多くない。1枚取って開いた。  う…わ…っどうする、これ…っ  いや、どうするっつっても…  ほか、選べねぇし…、選べねぇけど、でも…っ  俺以外の3人が動き始めた。  いつまでもぐずぐずしてられない。  仕方ない、っていうか他は考えられない。  言い訳は後で考える…っ  くるりと向きを変えて、赤組の応援席、自分の席に向かって走り出した。  翠里と大田が喋りながらこっちを見てる。絢一はたぶんリレーの準備に行ったんだろう。姿が見えない。俺が走って来るのを見て、翠里が驚いた顔をしてる。大田が立ち上がった。 「お、なんだ間宮?! 何がいる?!」 「翠里!」 「え?」  大田も翠里も目を丸くしてる。 「翠里! 俺と来て!」
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