755人が本棚に入れています
本棚に追加
Misato 95
朝、アラームが鳴って飛び起きて外を見た。
良かった、降ってない。体育祭やれる。
今日1日頑張ればいいんだって思って、ちょっと心が軽くなった。
でも、久保さんが話しかけてきて、またモヤッとしてしまった。
だから咄嗟に嘘を吐いた。
「慎、体育祭の後の約束、覚えてるよね?」
みんなと、久保さんとカラオケになんか行きたくなかった。
早く、慎と久保さんの接点をなくしてしまいたい。
慎が久保さんを何とも思ってないのは分かってる。分かってるけど…。
「あ、ああ。もちろん…」
慎は嘘にのってくれた。
「あー、そうそう。翠里言ってたよな、慎と予定あるって」
絢一までのっかってくれた。
「ってことで、俺と翠里は行けねぇけど、みんなで楽しんできて」
慎がはっきり断ってくれて、すごく嬉しかった。
「翠里! 俺と来て!」
慎が走って来て、オレを見て手招きした。
なんで?! お題なに?!
分かんないけど慎に呼ばれたら行かなくちゃっ!
大慌てで立ち上がって、大田の前を通る時うっかり足を踏んでしまった。
「あ、ごめん大田っ」
「いいっていいって早く行けっ」
「うんっっ」
すぐそこまで来た慎に手を引かれて走り出した。
わー!って大きな歓声が聞こえて、でも慎と走ってると鼓動がすごくて、すぐに自分の心臓の音しか聞こえなくなった。
さっき障害物競争で使ってた竹馬を持って走ってる青組の女の子を追い抜いて、1番でジャッジの放送部の先輩の所に来た慎が、握りしめてたお題の書かれた紙を女子の先輩に手渡した。
『はい赤組ー』
それを開きながら先輩がちらっとオレを見た。
なに?! なんて書いてあるの?!
『お題は『自色で一番可愛い人』! オッケーです! 可愛いです! ゴールへレッツゴー!!』
え?! え?! え?! え?!
「行くぞ! 翠里!!」
ぐいっと手を引かれて再びゴールへ走り出した。ひらひら揺れる慎のハチマキを見ながら走る。
慎が1位でゴールテープを切った。オレも一緒にゴールする。
うわー!っていうすごい歓声がまた覆い被さってくるように聞こえた。
スピードを落とした慎が、オレを見下ろしながら手を離していく。そして照れくさそうに笑った。
『自色で一番可愛い人』
「…他選ぶとか考えられなくてさ…。でもどうしよっか、これ」
苦笑いしながらそんなことをオレに訊いてくる。
「…わ…っかんないよ、そんなの…」
声もすごいけど視線もすごい。ゴールから自分の応援席まで結構距離があって、みんながチラチラ振り返ってオレたちを見てくる。
片手で鼻から下を隠して俯きながら歩く。慎の腕に顔を伏せて歩きたいぐらいだけどその方が目立っちゃう。
慎もちょっと顔赤い。周りから色んな声が聞こえてきてる。
「あ、ほんと可愛いね、あの1年生」
「呼びに行った方は格好いいよ」
「あの彼スウェーデンリレー出るよね。練習してた」
「そうそう、で、可愛い方は毎日見に行ってる」
「まじで? 萌えるわー」
っていうかそんなに見られてたの?!
自分たちの応援席が近付いてきたら、慎がふーって大きく息を吐いた。
「おー、おかえりぃ! 2人とも」
大田がオレらに気付いて笑いながら手を振った。周りのみんなも一斉にオレらの方を見た。
「すげぇの引いたなぁ、間宮」
イヒヒって大田が笑って、慎が「なんだよ」って言いながら席に座った。オレも改めて大田にさっき足を踏んだのを謝って座った。
「でもいい判断だったと思うぜ? あのお題でさ、間宮が女子連れてったらこれぐらいじゃ済まねぇだろ。その点田所は可愛いけど男子だからさ」
大田がそう言って笑った。
…そういう考え方もある…のか…
隣に座ってる慎をちらりと見たら、慎もちょっと驚いた顔でオレを見てた。
最初のコメントを投稿しよう!