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「さて……私の乗車する季環車はいつ到着するのでしょう」
「まもなくだよ。ほら、見えてきた」
遠くから黒煙の雲を噴きながら、夏の駅に向かってくる影が映った。辺りの景色を徐々に暗闇に染め上げていく。
黒い靄がホームのすぐ横に停車すると、蛍が群れを成して集まり、青白く光る乗降口を描いた。
「これはあなただけの季完車です」
「やっと、彼の元に行けるのですね」
「それはどうだろう、その彼はすでにあなたを忘れ、新たな四季の旅に出ているかもしれないよ」
「それでもいいのです。もしそうであれば私も四季に旅立ち、再び出会う日が来ることを祈ります」
「それまでに果たして、いくつの季節を重ねることになるのだろうね」
「いつでもよいのです。ただ、できればこの夏の駅で巡り合うことを願いたい」
乗降口に足を踏み入れると蛍が私を包み込み、気がつくと柔らかな灯火に照らされた列車の座席に座っていた。
車窓からは駅長さんが敬礼をする姿が見えた。
「長年のお勤め、ご苦労様でした」
「ありがとうございます。それでは行ってまいります」
ぼーっとひときわ大きい季笛が鳴ると、ゴトンと車輪に連なる主連棒がゆっくりと動き始める振動を感じた。
季完車の煙突から流れ出す炎の塵が、夏の夜の晦冥に揺らいで消えていく。
焚火で焼いた落葉のような懐かしい匂いがした。
彼の駅は何処に
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