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自慢じゃないけれど両親を困らせたことはなかったと思う。門限は守っていたし、校則違反もしていない。学校をズル休みしたこともない。高校に入って彼氏ができて彼が進学はしないと言うから私も何となく就職した。
お互い実家暮らしで安定した収入が入るようになったからデートが豪華になった。楽しかった。それなのに些細な喧嘩で関係が悪化して別れてしまった。
それから、ぱったりと出会いがなくなった。私はそれでもよかったけれど三十歳が近づくにつれ、母が口を出してくるようになった。「彼氏いないの?」とか「お見合いしてみる?」とか。
私を気遣ってくれているのは分かるけれど正直もう、うんざりだった。仕事でもミスが増えていて、ここから抜け出したい!環境を変えたい!と思っていた時たまたまSNSに上がっていた川越市を見つけた。
URLをタップしてみると『宇宙一住みやすい街 川越市。私たちが貴方のセカンドライフを応援します』という見出しのホームページに飛んだ。他の書体や文章は私が住んでいる地域のホームページと大差ない形式的で地味な感じだ。そのせいか、その見出しだけが異様に浮いているように見えた。下の方にSNSのアカウントページの枠があり『#川越市 でシェアしませんか?』とタグができていた。青色に変色したタグを追ってみると、膨大なコメントが連なっている。
"宇宙一とか草"
"宇宙に草は生えん"
"どこにあるの?"
"地理分かんない!助けて有識者!"
"シェフじゃね?"
"かわぎぃ〜ごえぇ〜"
"拡散希望"
ほとんど面白半分でタグ付けされているようだったけれど、中には画像付きのものや"川越市に引越しました!最高!"というコメントもあった。何故か惹かれるものを感じて、どんどんスクロールしていくと公式マークのついたアカウントのコメントを見つけた。
『#川越市 への引越しなら鎌持引越しセンターにおまかせ!お見積もり、ご相談等はお気軽にDM下さい』
私は早速DMで連絡をした。数時間後に担当者から返信があった。とても丁寧な文章だった。
担当者によれば川越市は確かに存在し住みやすさも保証されているけれど、その分、他の地域より引越しの手続きが面倒だということだった。さらに住民になるために、いくつかの条件をクリアしなければいけないらしい。
手続きの数や条件の一覧を見た私は、すぐには信じられなかったけれど、その内容が真実なら実家を出られて心機一転する以外にも嬉しいことがあったから、担当者の言った条件をクリアし手続きを踏み、晴れて川越市の一等地に引っ越すことができたのだった。
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