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目が覚める。  見覚えのある天井が目いっぱいに広がる。タオルケットをかけているだけだというのに、長距離は知ったかのような汗の量に顔をしかめる。髪の毛や寝間着が肌に張り付いてやけに気持ち悪い。それもそのはず、今月は金欠のせいでエアコンをつけていないからだ。まだ4月半ばだというのにこの暑さ。ニュースに目をやった時に今年は桜が早咲きだとか、なんだとか言っていた気がする。  視界が真っ赤になる夢がよぎる。最近は誰かに殺される夢ばかり見る。しかも、私が引っ越そうとした物件でだ。なんでこんな夢を見るのか全く分からない。だけど、そんな夢を見た手前その物件に住もうとも思えなくなってしまう。そうしてかれこれ数か月過ぎてしまった。本来なら専攻別ガイダンスが始まる前には引っ越そうと思っていたのに…。  物件を探すことに時間を費やして最近ではバイトが入れなくなってきてしまった。本当に困る。最初は事故物件かと疑って不動産屋に問い詰めたり、口コミをあさりまくったりしたが、そんなことは一切なかった。  どうしよう。  もう貯金もかつかつになってきているし、そろそろ本当に物件を決めるしかない。反対にここまで来て、やっぱり引っ越しをしないというのもなんだ。次、決めた場所に絶対引っ越す。これは嫌な夢を見ても!  そう考えたら行動に移さなくてはと思い、私は今日の授業終わりに不動産屋によることを考えた。  「またいらしたんですね。」と朗らかに笑う不動産屋の店員さんはどこかうっとうしそうな口ぶりで話しかけてきた。理由は明確だ。「ここにします。」と言っておいて、次の日にはやっぱりやめますと言う事を繰り返しているからだ。この店員さんも笑顔で接してくれるだけ優しいのだろう。  「美緒様の要望ですと、残りご覧になっていない物件は一つになります。」「そちらでお願いします。」何十回も物件を見ていたからだろうもう私の要望に適している物件は一つしか残っていないらしい。となると、この物件にすべてをかけるしかない。  「ここにします。」物件に向かってからはすぐだった。今まで見てきた物件の中で一番しっくりくる間取りだった。それもそのはず、今住んでいる物件にそっくりだったからだ。私は今まで保留にしていた書類も今日こそはと思いすべて記名し、契約してしまった。これで、もう後には引けない。  すべてやることを終えて家に帰る。家に着くと、この間でた課題が、明日中に提出だったのを思い出して、引っ越しや家具配置などを考えるのすら忘れて、すぐさま取り掛かった。だけど、今日は疲れてたのかもしれない、課題がもう少し終わるというところで瞼が空かなくなってしまった。  目が覚めると部屋は真っ暗だった。電気をつけっぱなしで寝てしまったはずなのに、もしかして、ブレーカーが落ちてしまったのか。  私がたつと隣から声がした。死んでくれ。  「っ!!」目が覚めると目の前に提出期限が過ぎてしまった課題が移ったパソコンがあった。今回の夢は今までとは違った。相手が見えた気がしたことだ。どこか見たことがある気がしたのに、思い出せない。でも、少し安堵したのは、あの物件の部屋ではなかったことだ。  良かった。本当にそれだけだった。別に夢を見たから何と言う事もないのに、どこか不安になってしまって引っ越せなかったからよかった。  やっと終わった。あれから数週間がたった。引っ越しを終え、段ボールも今日ついにすべて片づけることに成功した。  私は終わったと思った瞬間疲れがたまっていたのだろうベッドに行くこともできず、そのまま机にうつぶせになって寝てしまった。  久しぶりに夢を見た。引っ越しを考えている間に見ていたような現実味のある夢。目が覚めると真っ暗で目の前に人がいる。でも今回はやけにはっきり聞こえた。  「引っ越したなんて聞いてない。」視界が真っ赤になった。 今朝、大学生佐藤美緒(20)が殺害されているところが見つかりました。 犯人田中幸郎(45)無職は部屋の中に居て現行犯で逮捕されました。今回の大学生殺人について容疑を認めています。犯人は一緒に住んでいたのに、引っ越してしまったからと供述しており…  はあ、またこうなってしまった。なんでうちに来る顧客はこういった変なものばかり連れているのだろう。
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