発見(みつか)ることは、幸か不幸か

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 二人の会食が終わった。二人同時に店から出る現場を見られれば具合が悪いため、県会議員が先に店を後にすることにした。 警察署長一人になった瞬間、ママに優しく語りかけてきた。 「いやあ、いつも悪いね。最近はホテルや料亭にも記者(ハイエナ)が張り付いてるもんでね。こういう密談が出来る隠れ家的な場はここしかなくて」 「いえ……」 「そうだ。ママ? このポスター店に貼って貰っていいかな?」 「どうぞー」 警察署長は手持ちの鞄からポスターを取り出した。それは、指名手配犯の顔が一面に描かれたものだった。 「あら? この人……?」 「そうだよ。十年前に一家四人惨殺した『慈英道一郎(じえい どういちろう)』だ。ママ、覚えてるだろう?」 慈英道一郎は全国指名手配犯で、罪状は一家四人惨殺の殺人である。 道一郎は事件を起こす前の当時、工場の工員であった。 しかし、不景気の煽りを受けてリストラされてしまう。道一郎には再就職のための学歴も資格も皆無、妻も子もいたためにどうしても工員を辞めさせられる訳にはいかなかった。 夜中に工場に出向き、工場長にリストラの撤回を懇願するも、無碍にされてしまう。 激昂した道一郎は隠し持っていた包丁で工場長を殺害。その横にいた工場長の妻をも殺害。工場備え付けのバールで金庫を抉じ開け、工場の運転資金数千万円を盗んでいるところを息子二人に目撃されてしまう。気が動転した道一郎はバールで息子二人を殴打して殺害。 翌朝、工場に出勤した事務員が死屍累々と倒れる工場長一家四人を発見。警察に通報したことで事件が発覚。現場に残っていた凶器と金庫の指紋と下足痕(ゲソコン)と、同僚の「リストラされて工場長を恨んでいた慈英道一郎と言う従業員がいた」と証言から、道一郎を被疑者と認定。事件の日以降、所在不明であることから指名手配犯となるのであった。  警察の一所懸命の捜査にもかかわらず、道一郎の行方は梨の礫。業を煮やし、道一郎に懸賞金を懸けた。工場長の妻の両親が資産家と言うこともあり、警察が懸けた懸賞金に更に上乗せがされ、額は一千万円となった。その途端に全国各地から情報提供の電話が警察署に鳴り響くようになったのだが、道一郎本人に繋がる情報は皆無。 今年で事件から十年目を迎えることで、警察はポスターを大量に刷り、さらなる情報提供を日本全国に促すのであった……
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