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海の彼方に何を見る
今年の夏は異常な暑さで、そこかしこで熱中症やら何やらで倒れる人が続出していた。
新型コロナも相変わらず流行っていて、家に引きこもっていても、日に何度も救急車の音を聞くくらいだ。とてもではないが、外で遊び惚ける気にはなれない。
だというのに――。
「ねえ、ひいおばあちゃん。そろそろ家に帰ろうよ。いい加減、熱中症になるよ」
「もうちょっと。もうちょっとだけ、お願いよ」
くすんだ灰色の砂浜と、澱んだ深緑色の海。その双方から照り返す日差しが肌を焼く海沿いの歩道から、曾祖母は動こうとしなかった。
愛用の可愛らしいフリルの付いた日傘だけを頼りに、むわっとした海風を果敢に体に受け、ただただ海を眺め続けている。
曾祖母はもう百歳近い。
冗談抜きで、昼間の海沿いに立っているだけでも命の危険があるはずなのに。
私がいくら言っても、曽祖母は最低一時間は海を眺め続けるのだ。
毎年のこととはいえ、今年の暑さを考えれば、何かあるのではとハラハラしてしまう。
結局、曾祖母が私に引っ張られるようにして帰宅したのは、それから更に三十分後のことだった。
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