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お風呂から出て、髪をタオルでゴシゴシしながら自室へ向かう。
うちの家は、曾祖母から私まで、三世代が同居している。ひいおじいちゃんは大分前に亡くなっているので、六人家族だ。
その六人が住むのは、曾祖母に負けず劣らず年季の入った古い木造平屋建て。
無駄に広く部屋数が多いので、六人家族でも手狭ではない。
私の部屋は、渡り廊下で繋がった所謂「離れ」と呼ばれる所にある。離れには二部屋あって、もう一方が曾祖母の部屋だった。
「ひいおばあちゃん、もう寝てる?」
軽く声をかけてから、ふすまをそっと開けると、隙間から涼やかな風が漏れ出してきた。
老人はエアコンが嫌い等と言うけれども、曾祖母はきちんとエアコンをつけて寝ているのだ。
中からは返事はなく、代わりにスゥスゥという穏やかな寝息が聞こえてきた。
「……おやすみ」
ほっと息を吐きながら、ふすまを閉める。
――と、その刹那。
「――もうすぐだからね」
「えっ?」
ふと聞こえたか細い声に、ふすまを閉める手が止まる。
今確かに、曾祖母は何かを言っていた。けれども、今聞こえるのはやはり寝息のみ。
どうやら寝言だったらしい。
「……何がもうすぐ、なんだろ?」
独り言ちながら、曾祖母の部屋を後にする。
「もしや夢の中で、ひいおじいちゃんに『もうすぐそちらに行きますからね』とでも言っていたのかな?」等と、縁起でもないことも考えてしまう。
何せ、曾祖母は百歳近いのだ。
「ひいおばあちゃん、明日も海に行くのかなぁ」
漠然と湧き上がった不安を形にするように、独り言が口をついて出る。
曾祖父が亡くなったのは、私が小学生の時のことだ。当時はまだよく分からなかったが、後になって感じた、共に暮らす身内が亡くなる喪失感は、上手く言葉にできないほどの衝撃を私の心に残していた。
あれをまた味わうことになるのかと思うと、ギュっと胃の辺りが痛くなる。
――ふと、曾祖父の兄が戦争から帰ってこなかったという話を思い出す。
曾祖母の世代は、あの喪失感を何度も何度も、短期間の内に味わったのだなと、今更ながら気付いた。
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