不思議発見部~再会と忘却の魔女~

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 あれ、会社だ。 「おはようございます」  オフィスの自分の席に腰かけながら、隣でパソコンを睨んでいる同僚に声を掛ける。目つきは悪いが不愛想ではない彼は、こちらを見て丁寧に挨拶を返してくれた。一息つこうと思ったのか、コーヒーの入った紙コップに口を付ける彼。「あーすっかり冷めてら」と苦い顔をした。それからコップをデスクに置き直し、パチンと指を鳴らす。すると不思議。コップから湯気が立ったではないか!……え? 「今の何ですか!手品ですか!?」 「……からかってます?」  微妙な表情の彼。わたしは追求しようとしたが、彼が上司に呼ばれて席を立ってしまった為に機会を失う。  ピンポーン。オフィスのインターホンが鳴った。午前中の郵便が届いたようだ。取りに行こうとすると、わたし宛ての荷物が羽を生やしてパタパタ羽ばたいてくる。窓の外を見ると、箒で人が飛んでいた。 (何これ、まるで魔法の世界じゃん!……魔法?)  わたしはごく最近聞いたような言葉に、引っ掛かりを覚える。 『ねえ、ハテナも何か試しに言ってみて。魔法っぽい言葉』    ――知識(しおり)。そうだ、わたしは知識(しおり)と星見遺跡に行っていた。そこで扉に吸い込まれて……どうなったのだろう?いつも通りに見えて、どこかおかしな社内。あの都市伝説通りだとするとここが異世界なのだろうか?    とりあえず状況を探りながら大人しく過ごしてみるが、心が落ち着かず、午後になるとランチ勢に紛れて早退してしまった。    街に出ると空には箒の他に、車もペガサスも飛んでいる。道行く人々の中には明らかに人間とは違う四角いロボット。殆ど人間だが首に型番の印字されたヒューマノロイド。ここは魔法と科学が混在する不思議な世界のようだ。しかしそれ以外は人も建物も元の世界と変わりない。異世界というよりパラレルワールドといったところか。  不安も恐怖もあるにはあるが、午前中の仕事時間で謎の余裕が生まれ、知識(しおり)への土産話でも見つけようかな?と思える位になっていた。  それにしても……この世界は文字に起こせばワクワクするような要素に溢れているというのに、そこに生きる人々は楽しそうではない。それどころか酷く退屈そうに見えた。 (こんなに不思議に溢れているのに勿体ないわ!なんて、知識(しおり)なら言いそう)  さあ、これからどうしようか。わたしは答えを探すように空を見上げた。  空には昼間だというのに星が浮いている。不思議だなあ……と、赤、青、黄色に輝くその星を眺めていると、誰かが「アアッ」と声を上げた。驚きと絶望の入り混じったようなそれ。周囲の空気が一気に不穏になり――次の瞬間、星が鋭い光線を地上に放った。光線は人々の頭に直撃し、貫かれた人々は苦し気な呻き声を上げる。「キャー」「ウワァー」無数の悲鳴で街は混乱に陥った。 (とにかく、逃げよう!)  人々に倣って建物の中に避難しようとするわたしの頭上に、丸い影が差した。「忘却の魔女だ!逃げろ!」口々に言う人々。 (ま、魔女?)  振り返り見上げた先には……UFO。フォンフォンと独特の音を立て浮いている円盤マシンの上には、見覚えのある女の姿。フワフワの髪に大きな三角帽を被って、紺色のローブに身を包んでいる。知識(しおり)に見えるが、その目の輝きは失われていた。  魔女はわたしと目が合うと驚いたような顔をして「久しぶりね、ハテナ」と言った。それはつい最近も聞いた言葉だが、悪役じみた響きだ。“久しぶり”ということは、これは元の世界の知識(しおり)ではなく、パラレルワールドの知識(しおり)なのだろうか。  彼女が手を振りかざすと、呼応するように星から光線が出る。逃げ遅れた人々が一人、また一人、餌食になった。 「な、何をしてるの!?」 「何って。ニュースを見てないの?世間を騒がすテロリスト“忘却の魔女”とは私のことよ」  ……遅れて来た中二病だろうか?と思った。その時サイレンの音が鳴り、青空をパトカーが埋め尽くす。囲まれた知識(しおり)はチッと舌打ちをして「ちょうどいいわ。話もしたいし、人質になってくれない?」と言った。  言葉の意味が飲み込めないわたしを、UFOから飛び出した巨大な手が掴み、空に攫う。目が回って気持ち悪い。揺れる視界で、硬直状態の警官と勝ち誇った笑みの知識(しおり)が見える。そして次の瞬間、わたし達は虹色の光に包まれた。
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