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知識が片手を宙に掲げると、そこに“救済の星”が現れる。わたしは咄嗟に頭を庇って横に飛びのいた。わたしの立っていた場所に光線が刺さる。……脳を改造されるなんて絶対に嫌だ。けれど魔女の知識にわたしが対抗できる術なんてあるだろうか?
逃げるわたしを瞬く星々が追いかけて来る。少しでも止まればチンパンジーだ。チンパンジーは十分賢い生き物だと思っているが、わたしは人間のままで居たい!
「うっ」
足が縺れその場に転んでしまった。視界の端に顔の横スレスレを通過していく光線が見えて、背筋が凍る。
赤、青、黄色。クリスマスツリーの電飾のように色を変える星。宙に浮かびこちらに近付いてくるそれは、球体でも五芒星でもなかった。あちこちにボコボコと突起のあるそれはアレに似ている。アレだったら良かったのに。そう、
(金平糖になっちゃえばいいのに!)
そう願った瞬間、手の平サイズの星がパンと弾け、指先くらいの可愛い砂糖菓子になった。知識が驚いた顔をしているが、きっとわたしの方が驚いている。どういうことだろう?わたしにも魔法の力が発現したのだろうか?
金平糖が散らばり、空中で銀河になった。甘い銀河は網のように広がっている。わたしはそれを見て、高校時代に知識が言っていたことを思い出した。
『知ってる?宇宙と人間の脳はね、構造が似てるのよ』
脳の神経細胞と銀河は似ており、どちらも網目と繋ぎ合わされた結節点によって組織化されているだとかなんだとか。その時は話半分に聞いていたそれが、今、わたしの中で真実になる。
(そうか。この世界は誰かの、彼女の、わたしの……)
わたしは意識と体がどこかに引っ張られるのを感じた。
「逃がさないわよ!」
知識がわたしに手を伸ばす。その顔は置いていかれる子供のようで、今にも泣いてしまいそうだ。忘却の魔女に抱いていた恐怖心が一気に萎む。わたしはその手を掴み、彼女を引き寄せた。
「な、なんで笑ってるのよ」
「なんだ、まだ分からない事があるんじゃない。……ねえ知識」
「なに」
「大丈夫だよ。二人ならきっと、世界は不思議だらけだから」
だから今度はちゃんと、一緒に行こう。
わたしは目を閉じた。覚めるために、眠るのだ。
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