第二話・雪兎くん、○漢の現場に遭う

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第二話・雪兎くん、○漢の現場に遭う

 みなさんこんにちは。伊勢嶋雪兎17歳ホモです。なんか、この自己紹介すっかり定着しちゃいましたね…?  今日はクラスメートで想い人の岩本と、東京の大学までオープンキャンパスに行ってきました。え?デートかって?そうだね、デートだね!私服でもOKだったんですが、念のため二人とも制服で行きましたよ。制服デートだと思えば、それもまたヨシ!  岩本は、学校の成績はまぁ…うん…。ですけど、柔道の結果を残してるので推薦でいくつか大学を紹介してもらえそうなんですって。そのうちの一つを、見学してきた訳ですね。俺?まぁ、岩本が通うかも知れないならバッチコイって事で。偏差値も適当な所だし、多分受験はします。  もし大学が別々になっちゃっても、今まで通り会っていたいなあ。まぁ、二年生の冬に異世界転生でもしない限りは大丈夫でしょ。    すでに見学は終わって、高崎への帰りの電車に乗っています。東京からの電車…うっ、頭が。  先日の、嫌な体験が頭に蘇る。同じ線での出来事でしたが、満員電車の車内で○漢されて…。いや、いま思い出すのはやめとこう。  今日は比較的早めの時間帯なので、そこまで混み合っている訳でもありません。岩本がお年寄りに席を譲ったので、二人とも高崎まで立ちっぱですけどね。  このまま二人で向かい合って話していられるなら、それはそれで、いいかなぁ…って思いました。礼儀正しいんですよね、岩本。部活で、叩き込まれてるんでしょうけど。さっき行ってた大学でも、俺がよそ見しててぶつかった学生さんに対して代わりに謝ってくれました。  …って何それ、彼氏?彼氏の役割だよね?絶対ぶつかった相手(女子学生さんでした)に「あの二人、出来てる!」とか、噂されてるよね!?  そういや先日、岩本に○漢される妄想をしてしまいましたが…。これも、付き合っている二人が同意の上でするのであれば合法ですよね(※犯罪です!ダメ絶対!)?両者合意の上で、満員電車内での○漢プレイ。いいなぁ、ちょっとやってみたい。  もしくは、同じく妄想したように俺が○漢されてる所を助けてもらうってやつね。「俺の恋人に、何しやがる!?」なんつって。なんつって。でもね、「俺の連れに〜」くらいなら普通に言いそうです。そんな風に、誰に対しても優しいから…誤解されちゃうんだよなあ。    「○○駅ー、○○駅ー」  電車が、途中の駅の一つで止まると…。先程までの閑散ぶりはどこへやら。ものすごい数の乗客たちが、いっせいに入ってきたぞ…?何これ。こんな時間帯で、こんなに混むものなの?多分スポーツの試合でもあったか、音楽のコンサートでもあったか。もしくは、その両方だろう。  「うわっ!」  後ろから、慌ただしく入ってきた男に突き飛ばされてしまった。この野郎…と怒ろうかと思ったが、その先で岩本が優しく受け止めてくれた。岩本のぶ厚い胸板の感触が、顔に伝わる。そして、心臓の鼓動が…。何、このラッキースケベ。超嬉しい。  「ははは、いとも簡単に突き飛ばされたなぁ。いつも言ってるが、もっとご飯食わないといかんぞう」  岩本が笑った。こちらの方がいつも思うけど、パーソナルスペースとか存在しないんかなあ…。とりあえず美味しい思いは出来たので、グッジョブ後ろの野郎!でも、それはそれとして謝れやボケが!  いつまでも、この体勢ではいられないので…。俺は別に、いつまでもこのままでいいんですけど。再び突き飛ばされないよう、岩本が俺を身体全体で庇う形となった。…って。こ、これは…。  雪兎A「これは、車内壁ドン!?」  雪兎B「知っているのか、雪兎A!?」  雪兎A「ウム…。 『車内壁ドン』  電車壁ドンとも。満員電車でサラリーマンと男子中学生が偶然こうなったりする。腐女子をキュン死させるには、十分な破壊力。なお、たまに満員でもない車内で男女のカップルがやっているが、こちらは迷惑極まりない  〜眠明書房『壁打ちって本当に壁打つ事かと思ってた』より〜」  はっ。いつの間にか、脳内会議を開催していたぞ。突然の事で、意識があっちの方に飛んでいた。と、とりあえずは現状に集中…出来るかい!すぐ目の前に、岩本の顔。だいぶ身長差があるので、正確には胸板ですけど。直視出来ないので下を向いたら、それはそれで股間が目に映るんじゃい!  ってか、ちょっと離れた所にいる女子高生二人…。どう見ても、スマホで俺らの事撮影してるよね?そうかそうか、お前らは腐女子だったんだな…。後で、その画像だか動画だか送ってほしい。  俺の頭に、岩本の吐息がかかる。先程行った大学の感想を述べているようだが、さっぱり脳に入ってこない。これ、高崎まで持つかなあ…色んな意味で。そんな事を、考えていると…。  「ち…痴漢!この人痴漢です!絶対、私の事触ってました!」  何だよ女、うるせえなあ。今、幸せに浸るのに忙しいんだよ。ってまさか、俺に向けて言ってる?馬鹿にすんな。こちとら、紛うことなきホモだっつうの。お前の身体なんざ、金もらったって触るかい…。  しかし女は俺でなく、近くにいた裕福そうなサラリーマンの腕を掴み金切り声を上げていた。そして、どう見てもカタギでないお兄ちゃんがどこからか現れて声をかける。  「大丈夫ですか?お嬢さん!いやあ実は俺も、この人が触っていたのを見てましたよ。おいオッサン!次の駅で降りて、駅長室まで付いてこい。出るとこ出ようぜ!」  あっ。これ、『それでも僕はやってない』で見た所だ!何とまあ、教科書のお手本みたいな痴漢冤罪だなぁ。冤罪かけられた方が、圧倒的に不利ってやつね。当時からどれくらい裁判官の意識が変わったか知らないが、まぁ無罪の主張は難しそうだ。とりあえず、関わり合いにはなるまい…。と思っていたら、何か知らんがオッサンの方が俺に声をかけてきた。  「き…君!そこの、男性に壁ドンされてる君だよ!君は、私らの方を見てたよね?ならば、私が彼女を触ってなどいないって証言出来るよね?」  は?知らんがな。こちとら岩本の股間を凝視するのに忙しくて、存在すら目に入っていなかったわ。って言うか、マジで関わり合いにならないで下さい。裕福そうなんだから、弁護士でも雇えばいいでしょ?そう思って顔を背けると、何と岩本の方から助け舟を出した。  「えぇと。俺の方は、ずーっと一部始終を見てたっすよ。確かにそこのご主人、お姉さんには指一本触れてなかったっすわ。ってかむしろ、電車が混みだす前から彼女の事は見てました。そこのお兄さんと、何かの打ち合わせしてましたよね。電車が満員になる頃合いを見計らって、金持ちそうな紳士をハメようとした…?」  おぉ。何だか知らんが普段の三倍くらいは喋ったな、岩本。とりあえず、俺は今のお前にハメハメして欲しいです。  「はぁ!?ずっと見てたとか…適当な事言ってんじゃねぇよ!仮にそうだったとしても、どうやって証明…」  チンピラのお兄ちゃんが、ムキになって反論してきた。あ、これは語るに落ちたってやつね。  「証明なら、出来るっすよ。俺の角度からは、撮影出来なかったんですけど…。彼女らが、ずっとそちらを撮ってました」  声をかけられた女子高生二人が、驚きの表情を見せる。あぁ、壁ドンを撮影してた腐女子ね。多分、俺らしか映していないと思いますが…。  「どうも様子がおかしかったんで、目で合図してスマホで撮影してもらってたんすよ。って事で、証拠ならありますよ…?」  少しためらっていた彼女らだったが、決意したように「そうです!あたしたち、撮影してました!」と言い出した。多分、岩本がそれこそ「目で合図」したのだろう。なおも食い下がろうとするお兄ちゃんであったが、岩本とは大人と子供と言っていい体格差だ。しかも、岩本は柔道の達人。こんなヤクザの下っ端みたいな奴なんざ、いとも簡単に組み伏せられるだろう(俺も組み伏せてほしい)。  「さぁ、まだ文句あるか?さっき、出るとこ出るかとか言ってたよな。俺の父親は、警官だぞ。お前らこそ、出るとこに出るか…?」  この発言が、決め手となった。ちょうど次の駅に着いたので、お兄ちゃんは軽く舌打ちをしてすごすごと降りていった。ついでに、他の乗客たちに紛れてお姉ちゃんも。俺は、その一部始終を黙って見ているしか出来なかったけれど…。  い、い…。  イッッッッッケメンやなあ!おい!知ってたけど!マジで、ちょっと濡れたわ(汗で)。改めて、惚れ直した…。って言うか、初対面から寸断なく惚れ続けてるから惚れ直すとかないんだけどね。はぁ~、しゅきぴ!無理もう無理。抱いて!    888  88888888888  少し遅れて、車内に残った乗客たちから拍手が沸き起こる。みんな、見た見た?今のが、俺の彼氏!どうよ、格好いいでしょう?  危うく痴漢扱いされそうになったオッサンも、岩本に嵐のような感謝の言葉を述べる。うんうん、良かったなぁオッサン。それもこれも、俺の彼氏が有能だったからやぞ!    さてさて。そんなこんなで何駅か過ぎて、車内は大分空いてきました。腐女子らの撮影していた映像?さぁ、一体どうしたのかは想像に任せます。  「それにしても、あいつらが打ち合わせしてた所を見たって本当?」  「あぁ、流石にそれは嘘だ。電車が混みだすまで、奴らなんて気にもしてなかったからな。あいつらの言い分があまりに嘘臭かったので、こちらも一発賭けてみた訳だ」  そうかそうか。カマを掘った…じゃなくて、カマをかけた訳だな。  「それに、あの女子高生らが現場を撮影してたってのもな。たまたま、こちらにスマホを向けていたから思いついた嘘だ。まぁ奴らも、流石にデータを見せろとまでは言わなかっただろう」  いやいや、俺らの事はバッチリ撮影してたと思いますけどね!?まぁ、いいか。その純真さを、どうかいつまでもお忘れなく…。  「あぁ。だが、俺の父親が警官だってのは本当だぞ。ちなみに、母親の方は警察事務。ガラの良くない連中だったから、ああ言うのが一番効いただろう」  なるほど。嘘と真実を、混ぜて話していた訳だな?やるじゃん、頭いい!こないだの中間テストは、下から数えた方が早い成績だったけど!  「そ、そうなんだ…。凄いね岩本、ちょっと見直した(はわわ〜♡しゅきしゅき♡)。あ。それじゃ、オッサンが『指一本触ってない』事を見てたって言うのも嘘?岩本の方からじゃ、角度的に難しいもんね」  「いや、あれは本当だ。見たかよ、あの女。結構な美人だし、おっぱいもデカかっただろう。いやもう冗談抜きで、俺自身が痴漢しそうになるのを必死で抑えていた。正直、オッサンが痴漢したらそれはそれで美味しいなーとか。そうは思わないか?なぁ…伊勢…嶋…」  それ以上は、言わせなかった。気がついたら、俺の裏拳が岩本の顔面にめり込んでいた。  「な…なぁ伊勢嶋。いい加減、機嫌を直せって。俺…何か、悪い事を言ったのか?」  高崎駅に着いた。後ろから追いかける岩本をガン無視して、早足で先に進んでやる。  「さぁ、知らん。自分の胸に、手ぇ当てて聞いてみたら?」  そうかそうか岩本、お前はつまりそう言う奴だったんだな…。って、うん。本当はずっと前から分かっていた。岩本は、男になんてこれっぽっちも興味のない…ノンケだって。俺に対しても、友達以上の感情なんて一切持ち合わせてないって…。  一人で舞い上がって、損した。これ以上、変な期待をする前に…彼の事は諦めよう。綺麗さっぱり、この気持ちは忘れよう。そのように、決意したところ。  「いーせじまっ!もう、子供みたいに拗ねんなよな。水臭いぞっ」  そう言って、岩本が後ろから抱きついてきた。繰り返し言っているが、お前のパーソナルスペースは本当にどうなってんの…?  「俺が悪い事を言ってしまったなら、謝るから。だからそうやって、一人で胸の内に秘めるなよな。友達だろ?」  そうして、グリグリと頭を俺の後頭部に擦り付けてきた。遠くから、また別の腐女子がガン見してくる視線を感じる。  もう…。本当、仕方ない奴だな。とりあえず、人の目があるから早く離れてほしい。でも、でも…。  やっぱり、しゅきぃ♡
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