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「アレキス、お前は追放だ」
騎士団パーティ【大海原の騎士】のリーダー、ルーク・スチールが言った。
王国から与えられた任務を終え、騎士団ギルドからオーク討伐の依頼をもらったばかり。
出発する前に、アレキスだけがギルドの外に呼び出される。
「どうして!? 僕は全力でみんなのお手伝いをしてきました!」
超能力を持たない青年、アレキス。
超能力がなければ騎士になるのは難しいと言われながらも、ようやく見習いとしてこのパーティに所属することができた。
見習いとして入って3ヶ月。
優しく受け入れてくれたと思っていたのは間違いだった。
「全力で、か。俺がお前をここに所属させたのは、お前が強い超能力を覚醒させる金の卵かもしれないと期待したからだ。超能力が覚醒するのは18歳を過ぎれば3パーセント。今か今かと待ち続けたものの、その結果がこれだ」
ここに他のメンバーはいない。
ギルドの中でゆっくりくつろいでいることだろう。
アレキスの追放について、他の3人のメンバーは知らなかった。
完全にスチールの独断だ。
「努力を重ねれば、僕だってきっと騎士に──」
「黙れ! しゃべるな! 無能のガキ!」
スチールは鉄でできたものの形を自由に変えられるという超能力を持っていた。鉄製の剣を自在に操り、独自の戦闘スタイルで敵をなぎ倒す。
残酷なその目はアレキスに向けられていた。
「今日までここにいさせてやったことに感謝しろ! 明日はお前の19歳の誕生日──もうお前に騎士としての未来はない」
「でも……僕は……」
剣の腹で肩を殴られ、地面に叩きつけられる。
アレキスの澄んだ細い碧眼から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
自分の無能さ、自分の弱さ、激しく襲う無力感。
(僕はもう……騎士にはなれないのか……)
彼の目に映る暗い地面。
希望などあるはずもない。もう19歳になってしまう。
それから超能力を覚醒させるなんて、奇跡に近いことだ。
「好きなだけ泣け。殺すつもりはない。可哀想なアレキスは自分の将来を諦めて実家に帰った、とメンバーには伝えておこう。お前はすぐにここから消えろ!」
「嫌だ!」
アレキスが顔を上げた。
涙を拭きながら、決して意志は曲げないという強い視線を送る。
「僕は最強の騎士になる男だ! こんなところで、諦めるつもりなんてない!」
「黙れと言ってるだろ!」
スチールがアレキスの左目の下を斬りつける。
範囲は広くないが、一生残る深い傷になることは間違いない。
それでもスチールの目を見続ける強い瞳。
血と涙がこぼれ落ちる。
「いいか、アレキス。その意志だけは褒めてやろう。でもな、その意志には本当の実力という責任が伴う! お前のような弱い無能が、最強の騎士になるなどと語るな!」
アレキスは震えていた。
空は雨雲に包まれ、大雨と雷がふたりを取り巻く。
「お前がふざけたことを言うせいで、天気も悪くなったじゃないか。俺はギルドの中に戻る。お前は実家に帰り、夢の見過ぎでした、って両親に謝ってこい!」
ルーク・スチールは踵を返して、ギルドの方に去っていった。
(僕だって……僕だってルークさんのように……強くなりたかった……)
あんなに酷いことを言われようと、アレキスはスチールを尊敬していた。
それは本当にスチールに実力があったからだ。
(どうして……どうして僕の努力は……)
「こんなところで何しとるん、アレキス坊。久しぶりやな」
雷が鳴り響く騎士たちの街。
アレキスの前に現れたのは、体格のいい大男。彼の言葉には西部地方の訛りがあった。
「ゼロックス……なんでここに……?」
「あんたの明日の誕生日を祝いに来たんや。でな、実はさっきの話、盗み聞き、しててな」
急に真剣な目つきに変わる。
「あんたは絶対強くなるで。あのスチールなんかとは比べものにならへんくらいにな」
「……どうやって……?」
「覚悟しときや。おれが最強のトレーニングプラン、考えてやるから」
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