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1階の酒場。
宿泊客の共有スペースであり、貴重な交流の場でもある。
トルネードを除くSランク騎士3人と、セレナ、ゼロックスは酒を飲みながら今日の予選を振り返っていた。
リリーはこの宿のメインシェフとしてまだまだ厨房の仕事に明け暮れている。
「今回の優勝はマーク・セイバーや! おめでとう!」
まずは見事1位通過を果たしたセイバーをみんなで称賛する。
「本当に素晴らしかったです。2位のダークネスさんにあんな差をつけての1位だなんて。ゴーレムとの戦闘はあまり騎士がしているイメージはなかったのですが、今回のゴーレムとの戦いで──」
「まあまあ、落ち着きや。あんたの騎士愛はようわかった」
セイバーは謙虚だった。
決して調子に乗ったり高慢になったりすることはなく、なおかつ自分の実力を蔑むこともない。自分の実力を認めつつ、現状に満足せずに次を向いていた。
「おめぇ、最高じゃねーか! アレキスほど熱かーねーけど、その根性燃えてやがる!」
「ありがとう、フレイム殿。しかし、君の戦いぶりを見ることができず、本当に申し訳ない」
「いやぁ、いーんだ。そいつぁ」
フレイムの頭に、すべてを諦め地面に座り込んでいた自分の姿が浮かび上がる。
(ほんと、情ねーな)
あのときアレキスから声をかけられなければ、弱ったメンタルを回復させることはできなかった。ますます思い知らされる自分の頼りなさ。そして、アレキスの強さ。
普通なら目の前のことで精一杯になるというのに、彼はフレイムのことまで気遣い、自信を取り戻すきっかけを作った。
「アレキス」
フレイムの顔は真剣だ。
「おめぇーに助けられた。ゴーレムに勝つなんて無理だと思う自分がいやがった──そいつをぶっ倒し、自分を10位まで押し上げてくれたのは、おめぇーだ」
セレナとゼロックスも、フレイムのことについては既にアレキスから聞いていた。
何も考えない、ただの熱い男かと思われていたフレイム。
そんな男が真摯に思いを伝え、ライバルであり友人である騎士、アレキスに感謝している。
「それは僕じゃない」
アレキスが答えた。こっちも真剣だ。
「君に打ち勝ったのは君自身──僕はあくまでも、君がまた走るための道を作っただけだよ」
炎は優しくみんなを包み、周囲を少しだけ明るく照らした。
「みんな若いのに大人やな。おれが20代のときは何も考えずにただ突っ込んどったわ。でもひとついいか、ぶどう酒が熱くなったで」
「わりぃ」
フレイムが頭をかく。
それを機に雰囲気が緩くなった。
酒場に他の客はいない。
1次予選で落ちた騎士たちは明日チェックアウトすることになっていた。
悲しい現実だが、脱落した者にはすぐに国から任務が与えられ、また全国各地に派遣される。
『バトルロイヤル』で試合をしている騎士たちは、事実上職務を免除されているのだ。
「そうや。明日はどうするつもりや? 発表までかなり時間あるで」
気づけば話題は明日の予定へと移っていた。
2次予選のチーム編成が発表されるまで、かなりの時間がある。部屋で休むこともできるが──。
「そりゃあ、もちろん決まってんよ! 野郎で【華麗なる剣】に行くぞ!」
「ギルドに行くって? それで何を──」
「おめぇーならわかるだろ、アレキス。まだ燃やしたりねぇんだ、ワイは! 最高ランクの依頼をもらって、4人でドカンと全クリってやつよ」
「私は一向に構わないが、エナジー殿にはメンテナンスが必要なのでは?」
セイバーのひとことに、アレキスが反応した。
「僕の超能力のこと、よく知ってるな」
アレキスに十分な休息が必要であること。
それは彼の超能力に詳しい人しか知らない。大きなエネルギーを生み出せば生み出すほど、たくさん休息して、エネルギーの材料を蓄えなくてはならない。
今日の戦いでは確かに強大なエネルギーを生み出した。
最高ポイントのダイヤモンドゴーレムを倒す上で、あれだけのエネルギーがどうしても必要だったのだ。
(そもそも、僕の超能力が何か、まだ彼に教えていないのに……)
「バトルに勝つには、ライバルの分析から入る──それが基本だ」
セイバーの灰色の目が光った。
一瞬ちらつかせた動揺。しかし、アレキスはそれを見逃した。
「確かに、僕は事前にギルドでライバルの観察をしたのに、1次予選で活かすことはできなかったからな。それも今回の反省点のひとつなのかもしれない」
セレナはアレキスの隣に座っている。一流の騎士たちと一緒にいられることが、彼女にとっては大きな経験。
(わたしもいつか、アレキスや他のみんなみたいに、立派な騎士に── !)
「おれも誘ってくれて嬉しいねんけど、明日は急用が入ってしもうた。ギルドには3人で──」
「自分が言った野郎4人ってのは、Sランク騎士4人のことだぜ。わりぃけど、ゼロックスさんは入ってねぇ」
(グサッ)
ゼロックスには少しショックだった。
(おれの勘違いやったんか……なんか恥ずかしいねんけど……)
髭の生えたベビーフェイスが青白くなり、ガクッと落ち込む。
「そんなに落ち込むことないよ、ゼロックス。僕もてっきりゼロックスも一緒かと──」
「いいんや、アレキス坊。慰めてくれんでも……」
(うわ、相当落ち込んでる)
1年間マンツーマンで訓練を受けたアレキスにも、ゼロックスの落ち込みようがなかなかのものだと思った。そんなに大したことでもないのに、意外と繊細なのだ。
「あのトルネード殿を誘うつもりか? 彼からは我々とあまり関わりたくないという感じがしたが」
「こう見えてもちゃーんと考えてんだ。あいつの心をメラメラ燃やす、最高に熱い誘い文句をな!」
「たとえばどんな──」
「まあ黙ってな。今から30秒で説得してきてやる」
アレキスとセイバーが顔を見合わせた。
どうやってもトルネードがついてくると思えないが、自信に満ちたフレイムの炎を見ていると、もしかしたら上手く説得できるのかもしれない、という期待が湧く。
正直、ふたりはトルネードが来ようが来まいが、どちらでもよかった。
こちらから親睦を深めようとしても、結局は冷たくあしらわれるだけ。
諦めていた。
***
ちょうど1分後。
トルネードの説得が終わったフレイムが、1階に戻ってきた。
余裕の表情。
目の奥にある炎も相変わらず綺麗に燃え続けている。これはもしや……。
「どうだった?」
アレキスが聞いた。
フレイムの答えはいかに!!
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