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フレイムから「遊びに行く」と突然言われたトルネード。
答えはもちろん──。
「断る。俺に遊んでいる暇はない」
フレイムもその返事が返ってくることくらい予想していた。
「おめぇーは予想通りの返事しかしてこねーな。熱い男ってのはよ、常に予測不可能なんだぜ!」
「意味がわからない」
トルネードは最初からフレイムを軽蔑していた。
その感情は冷たい瞳に現れている。
「まあ聞けよ。遊ぶって言っても、ギルドで仕事をもらって、パーッと全クリしてやろーぜって話さ! アレキスもセイバーも来るぜ!」
内容を聞き、トルネードは少しだけ興味を持った。
(エナジーもセイバーも来るのか。それならふたりの実力をこの目で確かめ、対策できるかもしれない)
しかし、すぐに我に返る。
(だが結局、無駄な会話など意味のない時間も多い)
「騎士団ギルドならひとりでも行ける。わざわざ貴様らと行く必要はない」
フレイムがニヤッと笑った。
(ここで断られるのも予想してたぜ。こんぐれーで炎は尽きねーぞ!)
「デスペラード将軍、みんなで倒しにいかねーか?」
トルネードの目が光った。
話には聞いている。アレキスが戦って負けた、というダークエルフ界のエリート将軍。その超能力は相手の体内で生成されるエネルギーの消耗を倍増させる、というもの。
宿屋の外では風が吹き荒れている。
もう夜なので、かなり迷惑な行為である。
「了解した。俺も行くと伝えておいてくれ」
無表情でそれだけ言って、無愛想に扉を閉めた。
一応、この部屋はフレイムと共同の部屋ではあるのだが……。
***
「ってなわけで、アレキス、応援してるぜ」
「……つまり、トルネードは僕に対抗心を抱いてるって?」
フレイムはトルネードとの会話を大まかに説明していた。
実際、彼のアレキスへの対抗心を上手く扱えたのはよかったものの、少しだけアレキスに対して罪悪感を感じている。戦って破れた相手と、また戦いに行くはめになったのだから。
それ以前に、アレキスはトルネードが自分に特別対抗心を抱いているとは思っていなかった。
「わたしでもわかるのよ。アレキスに対するあの目、男のライバル心としか思えなかった」
セレナも隣で呟く。
その際、少しだけアレキスの腕に触れていた。
(アレキスの腕、意外としっかり筋肉ついてる)
一方でアレキスは──。
(腕……腕をセレナにさわられてる!)
「おれの見た限り、あいつは誰にでも馴染まず、闘争心むき出しやからな。でも確かに、アレキスにだけは特別な感じがしたで」
「私の見解だと、トルネード殿はエナジー殿に一種の嫉妬心を抱いている」
「嫉妬心?」
セイバーが頷く。
「君にも彼にも、優れた実力と恵まれた超能力がある。彼は実力面以外で、何か君に嫉妬しているようだ」
アレキスが頭を抱えた。
人のそういう細かい感情についてはよくわからない。自分の感情をコントロールしたりする術は学んできていた。しかし、他人の感情を知る術は学ばなかった。
(最強の騎士になりたい、という気持ちは同じはず。僕の何が、彼の嫉妬心に火をつけるんだ!?)
「嫉妬心は私の勝手な憶測だ。あまり深く考えすぎない方がいいだろう。エナジー殿は明日に向けてしっかり休むといい」
「あ……ありがとう」
「もー寝るのか! こっから楽しくなるんだろーが! まだ起きて燃えよう──」
「今日はみんな疲れたんや。みんなそろそろ寝た方がええで」
ちょうど深夜12時だった。
***
「アレキス、今日のことだけど、まだ少し話せる?」
ゼロックスのひとことで、5人ともすぐに自分たちの部屋に戻った。
明日は9時からギルドに出発する。
そのためにも、ぐっすり寝て、デスペラード将軍討伐を成功させなくてはならない。
アレキスとセレナは、部屋の灯りを消して、もう既にベッドに横になっていた。
慣れてしまったのか、アレキスは安心して寝ることができていたが、セレナは心臓の鼓動が止められない。
「まだ寝てないから大丈夫。もし反応がなくなったら、それは僕が寝落ちしたってことだから、それは──」
「わかった」
セレナがふふっと笑う。そしてすぐに真剣な顔つきになった。
暗くてアレキスには見えないが、静けさで彼女の表情はなんとなく想像できる。
「わたし、家出してきたの──騎士になるために。22歳で、まだ超能力が覚醒してない。それなのに騎士になれるって信じて……」
「そうだったのか……」
セレナの騎士になりたいという意志は既に知っていた。
しかし、家出をしてまでここに来たことは、アレキスにとって衝撃の事実だ。なぜならアレキスは──。
「バカみたい、でしょ? ちゃんとした職業にも就かずに家で面倒を見てもらってた。それなのに、実現するかもわからない、夢みたいなことを追いかけて──」
「バカじゃない」
アレキスの声が部屋に響いた。
「夢を追いかけることはバカなことじゃない。むしろ誇らしいことなんだ」
「……そうね。でも、今日のアレキスたちを見て、思っちゃった──わたしには届かない世界なんだ、って。みんな小さい頃から超能力を覚醒させて、騎士の学校に通って訓練して……そのスタートラインにも立ててないのに、やっぱりバカだよ、わたし」
暗闇の中、セレナのこぼした涙がベッドに落ちる。
「それは違うと思うよ。少なくとも僕は、そのどっちも当てはまってない」
「え?」
「僕の超能力が覚醒したのは19歳のときなんだ。無能と言われて騎士団パーティから追放されてさ、死ぬほど努力した。騎士になろうって決意したのも17歳だったから、騎士の学校には通うには遅くてね」
「両親は騎士になることを、許してくれたの?」
「猛反対されたよ。喧嘩だって何度もした。今まで通ってきた学校を急に辞めて、騎士になりたい、なんて言われたら確かに怒られるのはわかってる。超能力も持たないやつに言われたら、なおさらさ」
「……」
「でも最後には認めてくれた。僕の強い思いは誰にも負けない。このまま喧嘩を続けても、結局僕の気が変わらないだろうって、母さんも父さんも思ったんだと思うよ」
セレナの奥底にあった、騎士になれないかもしれない、という不安はいつしか消え去っていた。
アレキスは恵まれていたのだと思っていた。
それなのに、18歳までに超能力が覚醒しない、自分と同じ人間だったのだ。
(アレキスについていけば……きっと、わたしも立派な騎士になれるときが来る)
セレナの心が晴れていく。
ここまで来て諦めるわけにはいかない、と改めて気を引き締めた。
「ありがと、アレキス……大好き」
アレキスはいつの間にか爆睡状態。
最後のひとことは、彼の耳には入っていなかった。
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