第20話 セレナ、小さく愛を呟く

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 フレイムから「遊びに行く」と突然言われたトルネード。  答えはもちろん──。 「断る。俺に遊んでいる暇はない」  フレイムもその返事が返ってくることくらい予想していた。 「おめぇーは予想通りの返事しかしてこねーな。熱い男ってのはよ、常に予測不可能なんだぜ!」 「意味がわからない」  トルネードは最初からフレイムを軽蔑していた。  その感情は冷たい瞳に現れている。 「まあ聞けよ。遊ぶって言っても、ギルドで仕事をもらって、パーッと全クリしてやろーぜって話さ! アレキスもセイバーも来るぜ!」  内容を聞き、トルネードは少しだけ興味を持った。 (エナジーもセイバーも来るのか。それならふたりの実力をこの目で確かめ、対策できるかもしれない)  しかし、すぐに我に返る。 (だが結局、無駄な会話など意味のない時間も多い) 「騎士団ギルドならひとりでも行ける。わざわざ貴様らと行く必要はない」  フレイムがニヤッと笑った。 (ここで断られるのも予想してたぜ。こんぐれーで炎は尽きねーぞ!) 「デスペラード将軍、みんなで倒しにいかねーか?」  トルネードの目が光った。  話には聞いている。アレキスが戦って負けた、というダークエルフ界のエリート将軍。その超能力(スキル)は相手の体内で生成されるエネルギーの消耗を倍増させる、というもの。  宿屋の外では風が吹き荒れている。  もう夜なので、かなり迷惑な行為である。 「了解した。俺も行くと伝えておいてくれ」  無表情でそれだけ言って、無愛想に扉を閉めた。  一応、この部屋はフレイムと共同の部屋ではあるのだが……。  *** 「ってなわけで、アレキス、応援してるぜ」 「……つまり、トルネードは僕に対抗心を抱いてるって?」  フレイムはトルネードとの会話を大まかに説明していた。  実際、彼のアレキスへの対抗心を上手く扱えたのはよかったものの、少しだけアレキスに対して罪悪感を感じている。戦って破れた相手と、また戦いに行くはめになったのだから。  それ以前に、アレキスはトルネードが自分に特別対抗心を抱いているとは思っていなかった。 「わたしでもわかるのよ。アレキスに対するあの目、男のライバル心としか思えなかった」  セレナも隣で呟く。  その際、少しだけアレキスの腕に触れていた。 (アレキスの腕、意外としっかり筋肉ついてる)  一方でアレキスは──。 (腕……腕をセレナにさわられてる!) 「おれの見た限り、あいつは誰にでも馴染まず、闘争心むき出しやからな。でも確かに、アレキスにだけは特別な感じがしたで」 「私の見解だと、トルネード殿はエナジー殿に一種の嫉妬心を抱いている」 「嫉妬心?」  セイバーが頷く。 「君にも彼にも、優れた実力と恵まれた超能力(スキル)がある。彼は実力面以外で、何か君に嫉妬しているようだ」  アレキスが頭を抱えた。  人のそういう細かい感情についてはよくわからない。自分の感情をコントロールしたりする術は学んできていた。しかし、他人の感情を知る術は学ばなかった。 (最強の騎士(ナイト)になりたい、という気持ちは同じはず。僕の何が、彼の嫉妬心に火をつけるんだ!?) 「嫉妬心は私の勝手な憶測だ。あまり深く考えすぎない方がいいだろう。エナジー殿は明日に向けてしっかり休むといい」 「あ……ありがとう」 「もー寝るのか! こっから楽しくなるんだろーが! まだ起きて燃えよう──」 「今日はみんな疲れたんや。みんなそろそろ寝た方がええで」  ちょうど深夜12時だった。  *** 「アレキス、今日のことだけど、まだ少し話せる?」  ゼロックスのひとことで、5人ともすぐに自分たちの部屋に戻った。  明日は9時からギルドに出発する。  そのためにも、ぐっすり寝て、デスペラード将軍討伐を成功させなくてはならない。  アレキスとセレナは、部屋の灯りを消して、もう既にベッドに横になっていた。  慣れてしまったのか、アレキスは安心して寝ることができていたが、セレナは心臓の鼓動が止められない。 「まだ寝てないから大丈夫。もし反応がなくなったら、それは僕が寝落ちしたってことだから、それは──」 「わかった」  セレナがふふっと笑う。そしてすぐに真剣な顔つきになった。  暗くてアレキスには見えないが、静けさで彼女の表情はなんとなく想像できる。 「わたし、家出してきたの──騎士(ナイト)になるために。22歳で、まだ超能力(スキル)が覚醒してない。それなのに騎士(ナイト)になれるって信じて……」 「そうだったのか……」  セレナの騎士(ナイト)になりたいという意志は既に知っていた。  しかし、家出をしてまでここに来たことは、アレキスにとって衝撃の事実だ。なぜならアレキスは──。 「バカみたい、でしょ? ちゃんとした職業にも就かずに家で面倒を見てもらってた。それなのに、実現するかもわからない、夢みたいなことを追いかけて──」 「バカじゃない」  アレキスの声が部屋に響いた。 「夢を追いかけることはバカなことじゃない。むしろ誇らしいことなんだ」 「……そうね。でも、今日のアレキスたちを見て、思っちゃった──わたしには届かない世界なんだ、って。みんな小さい頃から超能力(スキル)を覚醒させて、騎士(ナイト)の学校に通って訓練して……そのスタートラインにも立ててないのに、やっぱりバカだよ、わたし」  暗闇の中、セレナのこぼした涙がベッドに落ちる。 「それは違うと思うよ。少なくとも僕は、そのどっちも当てはまってない」 「え?」 「僕の超能力(スキル)が覚醒したのは19歳のときなんだ。無能と言われて騎士団パーティから追放されてさ、死ぬほど努力した。騎士(ナイト)になろうって決意したのも17歳だったから、騎士(ナイト)の学校には通うには遅くてね」 「両親は騎士(ナイト)になることを、許してくれたの?」 「猛反対されたよ。喧嘩だって何度もした。今まで通ってきた学校を急に辞めて、騎士(ナイト)になりたい、なんて言われたら確かに怒られるのはわかってる。超能力(スキル)も持たないやつに言われたら、なおさらさ」 「……」 「でも最後には認めてくれた。僕の強い思いは誰にも負けない。このまま喧嘩を続けても、結局僕の気が変わらないだろうって、母さんも父さんも思ったんだと思うよ」  セレナの奥底にあった、騎士(ナイト)になれないかもしれない、という不安はいつしか消え去っていた。  アレキスは恵まれていたのだと思っていた。  それなのに、18歳までに超能力(スキル)が覚醒しない、自分と同じ人間だったのだ。 (アレキスについていけば……きっと、わたしも立派な騎士(ナイト)になれるときが来る)  セレナの心が晴れていく。  ここまで来て諦めるわけにはいかない、と改めて気を引き締めた。 「ありがと、アレキス……大好き」  アレキスはいつの間にか爆睡状態。  最後のひとことは、彼の耳には入っていなかった。
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