Missing summer memory

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 はじめに僕が尋ねたのは湊の家だ。  玄関先のインターホンを押すと、湊のお母さんが顔を覗かせた。 「あ、光流(ひかる)くん、こんにちは」  少し驚いたように見開かれた大きな目の下は、赤く腫れている。それに普段はもっと明るくて甲高い声で喋るのに、今日は声にハリがない。 「どうしたの、学校は?」 「ちょっと、サボりで……。あの、湊のこと、知りたくて──」  湊の名前を出すと、彼女の眉間に浅いシワができた。 「湊は、いないわ」 「えっとだから、調べさせてほしいんです。湊の部屋とか」  湊のお母さんは玄関扉を開け、オレを中に入れてくれた。  快く受け入れてくれたというより、相手にしている余裕は無いから用が済んだら早く出て行ってほしい、といった感じだった。  小学校時代から頻繁に訪れている湊の部屋は、見たところ特に変わった様子はない。  学習机の椅子は、いきなり立ち上がったみたいに出しっぱなし。  ベッドの上の掛け布団もくしゃくしゃのまま。  だけど余計な物は散らばっていなくて、机の上はあるていど片付いている。  その上にポツンと置かれているのは、湊がオレから盗んだ消しゴム。  オレがふざけて湊の名前を書いて使っていたら、「おれの名前が書いてあるから、それおれの!」と言って奪われてしまったものだ。  椅子に座って正面に見える壁には、コルクボードが掛かっている。  二人で近所の山へ散歩に行ってクワガタムシを捕まえた時の写真と、湊の家の庭で流しそうめんをした時の写真が貼ってある。  二つとも、オレらのツーショット。  去年か一昨年くらいの写真だ。  ボードには今年の写真もある。  オレが焼きトウモロコシにかじりついている写真だ。  これは二人で夏祭りに行った時に、楽しすぎて油断していたところを湊に撮られたものだ。  恥ずかしいから消せと言ったけど、まさかここに飾られていたなんて。  ちなみにその夏祭りは8月25日だった。  それが終わってからの別れ際、オレは湊から持病のことを告げられたのだ。どんな病気かは教えてくれなかった。  それが、オレが湊に会った最後の記憶だ。
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