君が見ていた風景

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家に戻ると、リビングにコンタクトレンズの箱が置いてあった。視力検査の結果が思っていたよりも悪く、一度病院に行くように案内があって、その時に眼科で作ってもらったものだ。僕の場合は乱視というものが強いらしくて、在庫を取り寄せる必要があったので、宅急便で家に送られてきた。ラジコンと一緒にコンタクトレンズの箱を抱えて、自分の部屋に入った。 時計はもう夕方の5時を指していた。空は少し赤みを帯びている。僕は床に置いたラジコンをぼーっと眺めて、頭で考えてから10分くらい遅れた体の動きでラジコンの中身を取り出した。表紙の紙はよれていたが、取扱説明書も一緒に箱に入っていた。フリーマーケットで買った商品なら上出来だろう。電源もそのまま入りそうだ。 このために買ったのではないかと思えるほどのタイミングで配達されたコンタクトレンズを付けて、僕は外に出た。 コンタクトレンズを付けて、今までの僕は相当に目が悪かったのだとすぐに気づいた。あらゆるものが鮮明に見える。考えてみれば、何を根拠に自分の目はそんなに悪くないと思っていたのだろうか。比べる基準が無いのに。 彩と一緒に少年たちが遊ぶのを見つめていた公園に急ぐ。日が暮れる前に、ラジコンを飛ばしたい。 じゃりじゃりっと足跡がする公園の広場に到着して、僕はさっき覚えたボタン操作でラジコンを宙に浮かせた。上昇と下降、手前や奥への移動に慣れるまで少しの時間がかかった。慣れてくると、案外楽しいものだった。広場には僕以外にベンチに腰かけた老夫婦しかいなかった。 ひとしきり操作をして、僕はラジコンを飛ばしながら立ち位置を移動した。1学期、彩と一緒に少年たちが飛ばしているラジコンを見ていた位置に立つ。 以前よりも鮮明になった世界で、以前よりも沢山の情報が目に飛び込んできた。僕が操作するラジコンの向こう、そこには町で一番大きな病院がある。窓の中の様子はよく見えないと思っていたけど、それは僕の目が悪かっただけで、今あらためて目をこらすと、そこには入院していると思われる患者の人たちの姿を認めることができた。 僕が彩とラジコンで遊ぶ少年たちを見ていると思っていた時、彩は本当にラジコンを見ていたのだろうか。 考えながらラジコンを操作していると、すぐに日が落ちて、僕は家に帰った。フリーマーケット巡りやラジコン遊びが与えてくれた心地よい身体の疲れで、その日は珍しく気づいたら眠りに落ちていた。
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