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「おい、たるんでるぞっ!」
戸部課長の一喝に、社内が凍りつく。
大手飲料メーカーとの千載一遇のプレゼンがポシャっただけでなく、それをライバル会社に奪われるという失態に、全体の士気が下がっていたところだ。
こういう場合、上司は二つのパターンに分かれる。
これまでの労いを称えつつ『次こそは頑張ろう!』という肩叩きタイプと、萎え始めている気持ちに鞭を打ってやる気を引き出す、机叩きタイプ。
「小さなミスがいくつも重なってたのは、慢心してたからじゃないか?」
低く唸るような声に、誰もが萎縮してしまう。
まさに、戸部寛之は机タイプだった。
全員が唇を噛み締めて伏し目、中には涙を拭う社員までいる。そうしてしまうのにはワケがあり…。
プロジェクトに参加していた俺──鹿島智成は、課長の彫りの深い横顔を見つめる。
いつも寡黙で実直な課長は、滅多に怒ったり頭ごなしに叱りつけたりはしない。常に俺たち部下の矢面に立つからこそ、上司に報いることができずに悔しいんだ。
「次っ、次こそは必ず勝ち取ってみせます!」
そう言ったのは、同期の小早川か。
そしてそんな勝利宣言が瞬く間に広がっていき、俺の元まで届く。
かつては、冷め切った目で仕事をしていたこの俺のところまで…。
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