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――お父さん。私が悩んでることに気付いて……悩んでたんだ。私が、ちゃんと話さないから……。
結局心配をかけてしまっていたのでは、意味などないではないか。私はしょんぼりと肩を落とす。
「親父殿、言ってたぜ。俺が男だから、父親だからいけないのかなあって。だから中学生の娘に信頼してもらえねーのかなーって」
「そ、そんなことないよ!」
私は思わず声を張り上げた。
「お父さんのこと大好きだもん!男手一つで苦労しただろうに……この年まで、仕事も家事も全部こなして、一生懸命私を育ててくれて!毎日感謝してるし、だから心配かけたくないの!そもそも……学校で、友達と一緒にいるのがつらいとか、いじめみたいな真似したくないとか、そういうことお父さんに相談しても意味ないっていうか……!」
「本当に意味ねえのか?そりゃ、学校に直接親父殿が何かをするのは難しいかもしれねえぜ。でも、解決策をお前と一緒に考えることはできるだろ?例えば……」
ふん、とぽんたろーは鼻を鳴らした。
「その、雪乃って子とだけ友達になったらどうだよ。グループの他の女子に嫌われたっていいだろ。本当に大事な友達が一人いるなら、それで」
「そ……」
それは、少しだけ私も考えたことだった。でも、雪乃が自分とそんなに仲良くしてくれるかどうかなんてわからない。それに、他の子たちに嫌われるのは怖い。その勇気は、出ない。
動揺する私の鼻に、むに、という感触が当たった。立ち上がったぽんたろーが、その右前足で私の鼻に猫パンチを決めて来たのである。
「何もかも望み通りになる選択なんかねえ。何かしら痛みや犠牲はつきものだ。それでも……一番自分が望んだものに近い未来はなんなのか、誰かと一緒に考えることはできるんだぜ。俺に相談するより建設的な方法があるだろうがよ。まずはそこからやってみたらどうだ、馬鹿親子」
「……馬鹿、は余計なんだから」
私は鼻をさすりながら、ぽんたろーに告げたのだった。なんだろう。結構きついことも言われたのに――ちょっとだけ、気持ちが軽くなったような気がするのは。
わかっている。どうしても決められないことがある時は、誰かに相談して決めるのがいい。その方がきっと、少しでも正解に近いところにいけるはずだから。相手が信頼できる人物なら尚更に。
「わかった。……お父さんに、全部話してみるよ」
目を覚ました時、私は布団の上で寝ていた。ぽんたろーは猫ハウスでぐーすか寝ていて、昨夜のことが本当に現実にあったことなのかは正直自信が持てなかったけれど。
少しだけ。ほんの少しだけ、前に進めるような気はしたのだ。
結局、娘である以上親に心配をかけないなんてことは無理ならば。少しだけでも、一緒に背負って貰う方がいいのかもしれない。
「お父さん。あのさ……相談が、あるんだけど」
私はパジャマ姿のまま、父の所へ向かう。
自分なりの力で、足で、明日へ進んでいくために。
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