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そんなある夜。
いつものようにトイレに起きて用を済ませた私はふとぽんたろーの猫ハウスを見て、彼の姿がないことに気付いたのだった。
「あれ?ぽんたろー?」
ちなみに私はシングルファザーの父と二人でマンションに暮らしている。父は一度寝ると全然目を覚まさないタイプの人だった。それでも電気をつけるのはなんだか躊躇われて、私はリビングへと足を運ぶ。
いつの間にかカーテンが開いていて、月明かりが部屋に差し込んできていた。電気をつけていなくても思ったより明るい。猫ハウスの前を通り過ぎて窓際に行くと、私は窓の前でちょこんと座っているぽんたろーに気付いたのだった。
「お前、何してんの?」
私の呼びかけに、ぽんたろーはちらっと振り向いたものの、すぐに窓の方へ向き直ってしまう。飼い主ムシかこの野郎、と思うが、そもそもぽんたろーは人間にべたべたしないタイプの猫だった。クールだと言えばいいのか。食事とオヤツの時だけ黙って目の前にやってきてオネダリするが、それだけである。普段は名前を呼んでもまず近づいてこない。留守番を頼んでも平気で猫ハウスで寝ている、そんなタイプの猫だった。
まあ、家の中で大運動会をして、カーテンや壁をがりがりびりびりとやらないのは良いことではあるのだが。
「何かあるの?何か見てんの?」
「……み」
私の呼びかけに、猫は小さく鳴いたのみだった。まるでお前に関係ねえし、とでも言わんばかり。別にそれが不愉快ということはない。ただ、なんだか羨ましいなと思ってしまったのも事実だった。
学校なら、クラスメートの呼びかけに答えないと、それだけで大騒ぎされる。無視しただの、態度が悪いだの、空気が読めないだの。本当は私だって一人でいたい時はあるし、好きでもなんでもない人達と付き合いたくなどないというのに。
「……私も、猫になりたいよ。だって、学校行かなくていいじゃん。退屈な授業でさ、あくび噛み殺して受ける必要もないし。宿題うぜーってのもないし。何より……面倒な友達付き合いとかさ、そういうの気にしなくていいんだもんね」
なんとなく、だ。なんとなく私はぽんたろーの隣に座って、彼に話しかけていたのだった。
ぽんたろーはこっちを振り向くことはしない。返事もしてこない。ほとんど壁に話しかけているようなもの。だけど――今はそれが、かえって気楽だったのである。
こんなこと、誰にも相談できないのだから。
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