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気づけば、毎晩夜起きるたび、ぽんたろーの横で話をするのが日課になっていた。
ぽんたろーは話を聞いているのかいないのか、ただじーっと窓の向こうのお月様の方を見ているばかり。返事の一つもしない。少しだけ空しくて、でも少しだけそれが気楽で。私は今日学校であったことの愚痴やちょっとした悩みを彼に相談していたのだった。
まるで、ぽんたろー相談室だ。まあ、カウンセラーは何もアドバイスなんてしてはくれないのだけど。
「……同じグループの、雪乃ちゃんがさ。なんか、最近ハブられ気味なんだよね」
私はその夜、ため息交じりに言ったのだった。
「雪乃ちゃんが、カラオケでアニソンばっかり歌ったのが気に食わなかったみたい。みんなが知らない歌ばっかり歌って空気読めない奴ーってなったらしいよ。……アニソン、良かったのにな。私は結構知ってる曲も多くて楽しめたのに……そう、言えなくてさ」
遊びに誘われなくなったり、食事中に彼女が同じ女子グループの友人達に話しかけても無視されるようになっていた。露骨に悪口を言われているわけじゃない。一緒の班になるのを拒まれるほどじゃない。でも明らかに、彼女をハブる雰囲気が出来上がっている。
私は、それに逆らえない自分が嫌だった。彼女を受け入れたら、今度は私がハブられることになるだろう。本当は女子グループの中で一番“マシ”で、話が合うと感じていたのが雪乃であったというのに。
「なんか、いじめに加担してるみたいで、嫌なんだよね。でも、私がハブられるのも嫌だし。どうしたらいいのかな……」
その時だった。
「お前なあ、いい加減うぜえんだよ」
「!」
突然、少年の声がした。ぎょっとして私は周囲を見回す。当たり前だが、夜中のリビングに私以外の人間の姿はない。テレビがついているわけでもない。
いるのは――今日は何故かまっすぐ私の方を見ている、ぽんたろーの姿だけ。
「毎晩毎晩、俺様に愚痴吐きやがって。お前ら親子さあ、面倒くせったらねえんだよボケ!」
「……え、え?ぽ、ぽんたろー?あんたが喋ってんの?」
「なんだよ、猫が喋ったら駄目か、ああ?」
ぽんたろーは不機嫌そうに、長いしっぽでぺしぺしと床を叩いた。確かに口元が動いている。まさか本当に、猫である彼が話しているとでもいうのか。
「なんでお前ら、俺にばっか相談してくんの?自分らで話さねえの?夜は娘、昼は父親の愚痴を聞かされる俺様の立場になってみろってんだ」
「え?父親って……お父さん?お父さんが、昼間に、あんたに愚痴吐いてんの?」
「愚痴っていうか、相談な。娘が悩んでるっぽいけど僕に相談してくれない、どうしよう、って毎日毎日うぜーのなんの。なんでお前らでちゃんと話し合わねえんだよ」
「!」
知らなかった。私は目を見開く。確かに、父は昼間も家にいる。ぽんたろーと一緒に過ごしているのは間違いない。でも、私が夜中にぽんたろーに相談しているように、父も昼間にそうしているなんて思ってもみなかったのだ。
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