渋谷甲太【1】

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渋谷甲太【1】

 久しぶりに黒須凛志を見た。相変わらずガリガリに痩せ細った体にオーバーサイズのパーカーを着て、居酒屋の外にある喫煙スペースで加熱式タバコを吸っていた。彼に気が付いた瞬間からスマートフォンのスピーカーを通して聞こえる歳下の交際相手の声は頭に入ってこなくなった。俺は彼女がひとしきり喋った後の僅かな一息で会話を適当に切り上げて通話を辞めた。薄いプラスチックで仕切っただけの簡素な喫煙スペースに入り込んで「クロス、クロスだろ」と声を掛けた。 「俺覚えてる?峯山小の、小三から同じクラスだったシブヤ。シブヤコウタ」 「はあ」素っ気ない返事の黒須。俺は「その態度はなくない?」と唇を尖らせた。 「小六の時に一緒に夏休みの自由研究やったじゃん」 「忘れた」 「絶対覚えてるべ」  黒須は溜め息と共に煙を吐いた。俺は中の光が漏れている窓ガラスを指差し「この店で呑んでたん?」と訊いた。黒須は答えなかった。俺は構わず続けた。 「俺もサークルの飲み会で来てた。クロスは?ひとり?」  やはり黒須は答えない。ダボダボのパーカーのポケットで何かが震える音がした。彼が取り出したのはスマートフォンだった。画面を見てまた溜め息をつくとタバコをしまって俺の横をすり抜けるように歩いて行った。居酒屋に入っていくのを眺めてから俺も店内に戻った。
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