<本田光太郎>依子side

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<本田光太郎>依子side

本田光太郎が経営しているゴーナイスという会社は洒落たビルの7階にあった。 土曜日ということでビルには人がまばらで、インターフォンを押すと秘書だという男が対応してくれてパーテーションで囲まれた応接セットのある場所に通されると目の前には小さなペットボトルのお茶が置かれた。 緊張の為、喉がカラカラになりペットボトルのお茶を半分ほど飲んで蓋をしたところに一人の男性が入ってきた。 「本田光太郎です。一応初めましてですね」 そう言うと株式会社ゴーナイスCEO本田光太郎と書かれた名刺を渡され、つい反射的に自分も名刺を取り出し名刺入れの上に一枚置くと本田光太郎に差し出した。 本田光太郎は私の名刺を見ると「トリプルクランですね」と微笑んだ。 トリプルクランとは不動産関連の三つの資格で、宅地建物取引士の資格を取ったあと、マンション管理士と管理業務主任者の資格を一気に取っていた。名刺の箔にもなったし、それを指摘されるとは思っていなかったから、少し驚いたのと電話では眼鏡に七三の神経質で感じの悪いイメージを想像していたので、目の前にいる男性のラフな感じの背が高くスタイルのいいイケメンだったことにおどろいた。 しかも、微笑むと電話とは違ってすごく感じがよさそうだった。 「この度はご愁傷様です」 一応言っておいた方がいいかと思い複雑な気持ちを隠して伝えると、私の感情がダダ漏れだったのか本田光太郎は「ふっ」と息を漏らした。 「そういうのは大丈夫です。旦那さんの不倫相手ですから複雑な気持ちだということは理解できますから」 「でも、こんな時に押しかけてしまってすみません」 「わたしが喪主にならざる得ない事に変わりはないが全て任せてあるし、葬儀も家族のみで行うことになってます。ですから、わたしが何かをすることはないのでお気遣いなく」 不倫をしていた妻に愛想を尽かしていたのかもしれないけど、ドライすぎてとても奥さんをなくした人とは思えない。 それなら、私も気にせずに話したい事を話そう。 バッグからあの日送るはずだった内容証明を取り出して本田光太郎に手渡すと、彼はすぐに目を通してから「ふっ」とまた息を漏らした。 結構笑い上戸なんだろうか? てか、内容証明に笑いのツボなんかないと思うけど。そう思うとちょっとムッとした表情が出てしまった。 「すみません、まさか300万の請求とは思わなくて」 あっ 「社長夫人のようだし、私の怒りを表現したくて。どうせ減額されるなら最初のスタートをMAXから始めたかったんです。本田遥香さんからじゃなくても夫から夫の分の300万と愛人の」 そう言ってからすみませんと頭を下げたが、愛人には変わらないがその夫の前で愛人という言葉を使うのは何となく申し訳ない気がした。 「愛人でも恋人でも浮気相手でも、クソ女でも大丈夫ですよ」 そうにこやかに話す目の前の男を見ると、妻に対して亡くなって悲しいという感情がないように見えた。 「愛人の300万も夫が払えばいいくらいに思ってました。まさか、請求相手がこんな事になるなって思っていなかったので」 「そうですね。わたしも想定外でしたが、いつかは何か問題は起こるだろうと思ってました。だから、行動を起こしたんですが。ちなみに、仕事上色々な人と関わりを持つ上で付き合いで掛け金は小さいですが数社の生命保険に入っているんですよ」 それ、わかる。 私も、外交員さんとの付き合いとか会社の保険関連の付き合いとかで3社安いのに入っている。しかも、健一の支払いは私がしてるし! 帰ったら解約手続きを取ろう。 私の受取人も理子にしておこう。 なんか、色々思い出したら腹が立ってくる。 そんな事を思い出して一人百面相をしていたらしく本田光太郎が「大丈夫ですか?」と声をかけてきた。 「すみません、保険の事を思い出して。付き合いで入る事ってありますよね。」 「ええ、それでその300万ですが全額、保険金がおりましたらお支払いします。他にも配偶者のいる浮気相手が複数いますので、ちょっとした不倫基金みたいにすればいいと今思いつきました」 「え?あ、ありがとうございます」 あれ?なんかひっかかるのは何だろう? って「複数!」 思わず声が出てしまった。 「旦那とあの男性と?まだ居るの?」
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