<キーパーソン?>依子side

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<キーパーソン?>依子side

部屋に戻ると念の為、小さなトランクに着替えや必要そうなものを急いで詰めた。持ち出せるかどうかはわからないが念のためだ。 それから健一のクローゼットを確認する。 ここは以前にも調べて見覚えの無いコンドームが出てきたくらいでそれは本田遥香と使っているだろうとはその時に予想がついた。 特に目新しいものはなく結局出すことができなかった内容証明を見つめているとインターフォンが鳴った。 郵便配達員から受け取ったのは受取人が健一と私の名前が連名の内容証明だ。 差出人は柿乃木法律事務所と書いてある。 連名ということは私も中を見ていいと言うことだろう。 何となくそんな気がしたが、本田光太郎という人物からの不貞行為に対する通知書で200万円の支払いを求めるものだった。 これを出してから自分の妻があんなことになった事を知ったんだろうか? というか、連名・・・・ 私だって本田遥香に請求したかった。 IT関連企業の社長夫人、私なんかよりもずっと恵まれているのに他人の生活を壊す様な人間。 思わず柿乃木法律事務所に電話をしたが、いくら腹が立っても向こうは奥さんを亡くしたばかりだ。流石に忙しいだろうし迷惑かもしれないと電話を切ろうとしたときに相手につながってしまった。 「はい、柿乃木法律事務所でございます」 柿乃木達彦と書いてあったから事務の女性だろう。 とりあえず書類を受け取った事を伝えておいた方がいいかもしれない。 「内容証明を受け取りました古賀依子と申します。柿乃木先生はお手隙でしょうか?」 「柿乃木はただいま他の電話に出ております。折り返しでよろしいでしょうか?」 電話しちゃったし話をしないといけないことには変わりないので折り返しをもらうように伝えて通話を切った。 200万か。 相手は社長夫人だったから私から本田遥香に300万円で請求をするつもりだった。 本田遥香は死んでしまったって、同姓同名かもしれないけど本人だったら請求はできないだろうし、だけど向こうから健一には請求できるわけで。 なんか、理不尽だ。 というか、もし健一が本田遥香を殺していたらどうなるんだろう? どちらにしてもどうして私だけ? と言う気持ちでいっぱいになる。 そんなことを考えていると着信を知らせるバイブが鳴り画面を見ると先ほど掛けた番号の末尾違いの番号だ。 「柿乃木法律事務所の柿乃木です」 「夫の不倫に関しての内容証明を受け取りました」 「古賀健一氏の件ですね」 連名で送られてきた事に関して聞くと、初めて知ったのでしたらショックだったと思いますがこちらも確実に受け取っていただくためですのでと言われ、私も内容証明を送るつもりだったと話し、本田光太郎さんと直接話がしたいと伝えると本田さんが了承したら本人から電話をもらえる事になった。 そうよね、あっちはお金があるんだから弁護士立てるよね。 それに、本田遥香があの本田遥香なら私に連絡なんてするヒマないよね。 念の為、内容証明の写真をとってからリビングのテーブルに置いた。 旦那さんにバレてるなら、警察もすぐ健一に連絡してくるよね。 気づくと喉がカラカラで、作り置きの麦茶をグラスで二杯一気に飲み干した。 テレビをつけてニュース番組を探したが欲しい情報は何もなかった。 ネットでも多摩川・女性死体と検索したがやはり新しい情報は何も無い。 「はぁ」 ため息をついたと同時にドアの鍵が開錠された音がして、一気に動悸が激しくなる。 「ただいま」 バッグをダイニングの椅子に置いて上着を脱ぎながらリビングに入ってくる。 どうしよう、怖い。 内容証明を見たら逆上とかしないだろうか? しまっておけばよかった。 タイミングを見て出すとか。 そんな事を色々と考えているとテーブルの上の内容証明の封筒に健一が気がついた時、玄関チャイムがなった。 「俺が出るよ」 そう言って背中を見せた時、慌てて内容証明の上に雑誌を置いてから、客の正体を見ようと玄関を覗くとガッチリとした体型の男性が名乗りをあげたあと手帳を広げると大きなエンブレムが見えた。 「古賀健一さんですね。任意でお話を伺いたいんですが。ご同行いただけますよね」 かなり断定的だ。 やっぱり、健一は容疑者なんだ。 「あの・・・えっと・・・」 しどろもどろになる健一に対して 「本田遥香さんの件で聞きたいことがありまして」 「本田さん・・・・」 そう呟いて健一は一度振り返ると私に「行ってくる」と小さな声で言うと玄関を出て行った。
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