<土下座の男>依子side

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<土下座の男>依子side

「スピーカーで出ろよ」 みっちゃんの言葉に伯父と伯母が頷く。 「何?」 『依子じゃ・・・ないよな?』 は? 「私のスマホに電話を掛けてきて、誰と勘違いしてるわけ?」 『いや、そうじゃなくて・・・その・・・本田さんを』 一瞬、四人全員でスマホを見つめてから 「「「「はあああああああ」」」」 『え?誰かいるのか?』 「健一君さ、不倫はするわ、ヨリを殺人者よばわりするわ。目の前にいたら殴り倒しているところだ。ふざけんな」 みっちゃんが言ってくれて少しだけ気が楽になった。 「本田さんの旦那さんから内容証明が届いてるけど」 『うん、見た』 「あなたこそ、多摩川に行ったんでしょ」 『それは・・でも俺じゃない。本当なんだ。信じて欲しい』 「不倫していた人間に信じて欲しいとか言われても信じられないでしょ」 『ごめん。今、どこにいるんだ?話をしたい』 「今更何?多摩川には行ったんだよね?そこははっきりさせて、正直に言うと健一が何かを知っていると思ってる」 『誓って俺はやってない。多摩川に行ったのは本当だけど、ちゃんと説明したい』 伯母が頷いているから話を聞いた方がいいということなんだろう。 みっちゃんを見ると親指でみっちゃん自身を指していると言うことは一緒にいてくれるという事だろうか? 「今からそっちに行くから」 『帰ってきてくれるのか』 能天気な返事にイラッとして通話を切った。 「なんだあいつは」と伯父 「帰ってきてくれるって何よ」と伯母 「不倫するような奴だから頭が花畑だな」とみっちゃん なんかもう、私が健一の愛人を殺したみたいなことを言われたり帰ってきてくれるのかとか、本当にイライラする。 みっちゃんと二人でまた軽ワゴンに乗り込むとマンションに向けて走り始めた。 「あの様子だと、健一君はやってないのかもな」 「そうね、いきなり私が殺したのかみたいなこと言っていたし。腹立つ」 「あいつってバカだったんだな」 「バカだったんだね」 「「はぁ」」 二人でため息がユニゾンした。 賃貸保証会社の営業として付き合いがあったから、当然みっちゃんも健一の事を知っていたし、二人が付き合い始めた時も応援してくれていた。 それがまさかこんなことになるなんて、思いもしなかった。 二人とも言葉も出なくてマンションに着くまで何も話さなかった。 開錠してドアを開けると目の前に土下座をして床に額付いている健一がいた。 何この生き物? と思っているとみっちゃんが私を押し退けて玄関に入ると土下座している健一の胸ぐらを掴んだとおもった瞬間にはすでに健一は廊下に倒れてうめき声をあげていた。 みっちゃんはそこで靴を脱いで玄関に置くとさっさとリビングに向かう。 何度かこのマンションにもきているから勝手知ったるなんとやらだ。 私も今更健一にかける言葉もなくて、その場で放心している健一の横を通ってリビングの二人掛けソファに座っているみっちゃんの隣に座った。
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