幽霊

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 彼はカメラを持参し、早速公園の中を探索する。  敷地内には遊歩道があり、その周辺を小さな池で囲まれている。途中、東屋がいくつかあり、地元では憩いの場として長年地域の人々に利用されている。  この遊歩道は所々で分岐点があり、山の中へ通ずる道を進んで行くと、その入り口に古い石段がある。極端に急ではないが、それなりに段数があり、上るにはそこそこ体力を使う。  その石段を上る切った先には長年放置されている古びた祠があり、その横には巨大な木が(そび)え立っている。  これが噂の老木に違いないと直感的に確信した。    (ようや)く目的地に到着した彼はここでカメラに向かってこの場所についての情報を簡単におさらいしてから、ここに到達するまで道中での印象や、独自に調べた情報について淡々と喋った。 「正直ここまで来る道のりではね、僕は何にも感じなかったね、全く。でも、ここはちょっと違う……何て言うか、強い悪意って感じかな。まあ、それはあとで検証するとして、実は僕も事前にね、ここの事色々調べたんですよ。そしたら、時々何かを叩くような音が聞こえるって。例えるなら、(つち)(のみ)を叩いているような音だと。それから激しい頭痛が襲い、意識を失うとか。そして赤いスカーフを巻いた女性の幽霊が出るという目撃情報も多々ありますが、これに関しては写真とか証拠があれば一番なんですけどねぇ。これ以上もこれ以下も無いって感じです。ハイ、無駄話はこの辺にしておきましょうか」  話を打ち切り、一番目撃談の多い老木近辺を隈なく調査した。 「ここに来た時の第一印象、かなり重苦しいね。まるで胸元を押さえ付けられているような。強い念のようなものも感じられるしね」  相当の年月が経過しているのだろう。弱々しいながらも不思議な霊力を老木から感じ取ることが出来たが、同時に邪悪な念をも一緒に感じ取れる。老木には善悪両方の霊力が入り混じっていると考えた。  それは恐らく、老木の横にある古びた祠が効力を失ったことが原因かもしれない。この祠が何を祀っているのかは定かではないが、老木とセットになっているのは間違いない。  ここからは彼の考察であるが、嘗てこの地域ではこの老木は信仰対象となり、それを具現化した存在を祀る為に祠が建てられた。  だが、時が経つに連れてその信仰も廃れ、忘れ去られたことにより、力を失い今に至っている。  確か、ここでは過去に凄惨な事件が発生し、その被害者の強い怨念が渦巻いていると事前情報としてあったが、それもこういったことが遠因である可能性は否めない。
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