魅了

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 翌日以降も、ユウくんはあたしに勉強を教えてくれたり、それが一段落すると、今度は自分の車で遊びに連れ出してくれた。駅が遠く、バスの本数も少ない街では車がないと買い物にも行けないという点でもあたしは父の故郷がなんとなく嫌だったけれど、ユウくんがあっけないほど簡単にそれを解決したことに対して、頼もしさすら覚えていた。  滞在期間が折り返しを過ぎた頃、父の実家の庭に親族が集まり、焼肉をすることになった。あたしは例に漏れず、食材を買い出しに行ったり準備をしたりと家の中での作業をしていた。  ある程度終わったので外の様子を見に行ってみると、ユウくんが一人でバーベキューコンロを組み立てていて、これからまさに火を起こそうというところだった。 「あれ。ユウくん、お父さんたちは?」 「酒が足りねえからって追加で買い出しに行ったよ。おかげさまで作業はおれの個人戦だ」  コンロの中に炭を組んで、火をつけた焚き付けをくべながら、ユウくんは額の汗を拭っていた。別に不憫に思った訳ではないが、あたしはうちわで扇ぐのを一緒に手伝いつつ、訊いた。 「ユウくんって、そんなにアウトドア派だったっけ。前は外に出んのだるいとか言ってなかった?」 「あー、今だってだるくなるときはあるけどな。まあ、大学入ってから友達とかとキャンプしたり、バーベキューしたりすることが増えたからかな」 「ふーん」  視界には火の粉がパチパチとコンロの中で舞いはじめる様子を映しながら、あたしの頭の中では別のことを考えていた。んーまあ、完全にないとも言い切れないし、何気なく訊くくらいならいいかもな。そうだな。 「そこには、女子とかいないの」 「ふはっ」  大げさにリアクションしようとしたユウくんは、勢い余って煙を吸い込んだのか、何度か咳き込んだあとで「なんだそりゃ」と笑っていた。 「言っとくけど、いくら工業大学でも女子が皆無なわけではないぞ」 「じゃあ、女の子いるんだ。ふーん」 「なんだ、遺憾か」 「別にぃ? いいんじゃないですかねーぇ?」  唇を尖らせながら言ったあたしは風上に移動して、風下にいるユウくんの方角に向けて、力いっぱいうちわで風を送ってやった。うわ、と腕を顔の前にやって防御のスタイルをとるユウくんも、なんだか絵になってむかついた。  やがて、ユウくんもあたしの方に向かって強く扇ぐようになって、うちわを振りながら二人してケラケラ笑っているさまは、あたしもユウくんも子供だったかつての記憶を思い起こさせるようだった。  別にいいんじゃないの。  ――なんて、どうして言ったんだろうか、あたしは。  別に。    そう付け加えてる時点で、心からいいと思ってるわけないのに。
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