夏の終わりに花火が咲いて

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 ある日、祖父の家に男の子がやってきた。麻の着物を着こなし、背が高くスラリとしていて、色白の中性的な顔立ち。  彼は祖父の紹介を受けて、礼儀正しくお辞儀をしてきた。 「皆川(つむぎ)です。よろしくお願いします」 「き、霧島弥生です」  わたしが慌てて挨拶を返すと、彼はにこりと微笑んだ。顔がかあっと熱くなって、思わず目を背けてしまった。  わたしと同い年の彼は、同じ町の呉服屋の子供で、将来のために住み込みで勉強をするのだという。  彼は朝から晩まで祖父たちに付きっきりで、手解きを受けていた。その目は真剣そのもので、技術を盗んでやろうという、鋭さみたいなものが感じられた。  わたしはそんな彼を遠巻きに眺め、気がついたら一日が終わる。そんな毎日を過ごしていた。 「弥生もやってみるか?」 「わたしはいいよ」  祖父が冗談めかしてわたしに声をかけた。着物は着るのも見るのも好きだったが、作り手側に回ることは頭になかった。将来どうしたいかなんて、まだ子供だったわたしには考えられなかったのだ。  彼は祖母から和裁の手解きも受けていた。わたしも少しだけ習ったことはあったが、彼の針さばきはずっと早く、正確だった。比べられるのが嫌で見ているだけだったが、女性のような繊細な指先に見惚れていた。
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