夏の終わりに花火が咲いて

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 彼は既に将来の事を見据えている。凄いと思うより、不思議だった。まだ遠い未来のことを、どうしてはっきりと考えることが出来るのだろう。わたしは夕食の時間に彼に聞いてみた。 「本当に呉服屋を継ぐんですか?」 「はい、着物が好きなので。いつか、父のようになれたらと思っているんです」  彼はにこやかに即答した。その笑顔が眩しくて、わたしはまた目を背ける。 「紬君は筋が良い。なんならウチの跡取りになって欲しいぐらいだよ。残念ながら、孫娘にはその気がなさそうでね」  祖父がわたしに意地悪してからかってくる。 「それも悪くないかも知れないですね。呉服の世界は沢山の職人さんがいて、初めて成り立つというのが父の口癖ですから。技術は受け継がれていくべきです」  彼は将来のことだけでなく、呉服の世界の事まで視野に入れていた。その時、彼とは住む世界が違うのだなと思ったのだ。
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