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断幕
「会長は『幸せ』って、なんだと思います?」
「質問が漠然としていて答えにくいわね会長補佐。もうちょい明確に頼むわ」
「そうですね。じゃあ『どういう状態が幸福』なんだと思います?」
「まだ不明瞭ねえ。それって個人的欲望の満足度のこと訊いてるの? それとも社会にどう帰属しているか、つまり社会的評価や存在意義のことなの?」
「その二つって分離してるものなんですか?」
「別々ってわけじゃないけどね。この国は豊かだから、衣食住が足りずに死ぬ人は滅多にいないわよね? だけど『私は幸せだ』と言い切れる人が何人いるかしら?」
「程度の差、って気がします。彼女にフラれた、という小さな不幸から、家族が殺された、というような惨い不幸まで」
「客観的な幸福論ね。でもね。事件や事故で家族を亡くす人はたくさんいるし、フラれたことで自殺する人だっているわけよ。世界を認識しているのは自分の脳なんだから、この世に完全な客観なんてないわけ」
「なにが言いたいんです?」
「極論になるけど幸不幸は本人の気の持ちよう、ってことよ」
「それって極論て言うより暴論ですよ」
「まあね。ところでそういう質問するってことは、会長補佐は現状に不満があるわけ?」
「そういうわけじゃ……。ただ会長の幸福観を訊きたかっただけです」
「なんで?」
「会長ですから。僕たちのリーダーですから」
「答えになってるようななってないような」
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