闘いの晩夏

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 その質問の意味がわからず、「は?」と眉根を寄せると、  「だからほら、9月に入っても真夏日を越える日が続いたでしょ?」  確かに。秋はいつ来るのだと思ったこともある。 「まあ、そうだな」と俺が答えると、男は人差し指を立てながら、 「それは、夏が勝ち続けているせいですよ」 「勝ち続けるって、何に?」  無言のまま男は立てていた指を路地に向ける。俺がノックアウトされた場所だ。 「ああ、ストリートファイト?」 「そう。あれは夏と秋の闘いなんですよ」  そこで男はしゃがんだままじりじりと俺に近寄ると、声を潜めた。 「絶対誰にも言っちゃダメですよ。実は私、日本の秋を司る神でして。そして相手の背後にいたのが、夏を司る神だったのです」  なんだこいつ。もしかして俺はKOされて変な夢でも見てるいのだろうか? 「夢じゃありませんよ」  考えを悟られ驚く俺に、男は軽く微笑んで見せた。 「我々四季を司る神は、それぞれの担当季節が終わりを迎えるころ、次の季節の神と闘い、その勝敗によって季節の境界を決めていました。今は夏の終わりだから、夏と秋の闘いですね。夏が勝てば翌年は暑い日がながく続き、秋が勝てば早く涼しくなるといった具合です。ただ、神々が直接闘うわけではなく、各々が代表を選ぶのですが」 「じゃあ、俺は秋の代表ってことか?でもどうして俺が……あ」 「そう。氏名に秋の字が入っているからですよ。その季節の漢字が入っていることが代表の絶対条件なのです」 「だったら俺の相手には夏の字が……」  ん?夏?まさか……。 「なあ、夏の代表ってもしかして?」 「もちろん、夏川謙信ですよ。」  思わず失笑してから、 「勝てるわけないだろ」 「ですよね」  ただ、相手がふざけたお面をつけている理由は想像できた。プロの格闘家だから第三者に目撃されたときのことを考慮したのだろう。  男はよっこらしょと言って立ち上がると、 「悔しいことに、夏川氏が代表になってから夏は連勝中です。でもね」  そこで彼は俺に右手を差し出した。 「でも、あなたは空手経験者ですから、ワンチャンあると思ってはいたんですよ」  その手をつかみ、俺も立ち上がると、 「ふん。あるわけないだろ」  どうやら夏の終わりは、どんどん遅くなりそうだ。
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