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風の返信
誰かが風を抱き寄せた。耳を澄ますように小首を傾げ、穏やかに目を細める。トラブルに見舞われやすい彼女なりに今日も元気で生きている。ただ、それだけでいい。
「人生のステージが秋になったようだね。年をくったんじゃない。木の葉が鮮やかに色づくように、十分にエネルギーを取り込んで甘い実を実らすように準備に入ったのさ」
風が地上の彼女を包んでから通り過ぎた。彼女は乱れた髪を軽く押さえ、うっすらと星が見え始めた空を仰いだ。涼しい風だ。
「ああ、夏が終わるのね」
確かな宛先も相手もない。けれど、届くのだ。そして、おぼろげな返信が届く。気付かずともそれは背を押す。形のないたまづさ、往復書簡。心のずっと奥底が知っている。
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