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 今日は9月1日。晴樹は代わり映えのしない監視ルームでモニタに囲まれながら、昨夜の選択は間違っていなかっただろうかと自問していた。  結局、神宮寺ナツメは作業を手伝うことなく、荷物をまとめてオフィスを立ち去ると、そのまま別れの挨拶もなく、本庁へと異動してしまった。怒ったのか、それとも悲しんだのか、呆れたのか。どんな感情を抱いたにせよ、晴樹の取った行動について失望したことは確かだろう。  でも、それでいい。何故なら夏は終わったからだ。  きっと夏の間なら、決意が揺らいでいたかも知れない。けれど夏は終わってしまった。  モニタの中で遠くの山の一部が紅葉を始め、通りを歩く人も薄手のコートを羽織ったりと、明らかに秋を意識した人々が映し出されている。スズムシやコオロギの声が響き、コンビニにはおでんの幟が上がっていた。  彼女と入れ替わりでやってきた秋担当の男性は、どう見ても夏が似合う色黒で健康そうな体育会系の人で、すぐに自分とは馬が合わないと感じた。それでも仕事上の付き合いなら、それでいいのだ。しかも彼は「秋って何だ?」と疑問を投げかけたりはしない。 「あのー、新山さん?」  暇そうに端末を弄っていた三村サナが眉根を寄せて彼の端末を覗き込む。 「やめて下さいよ。何ですか?」 「いや、メッセージ入ってますよ」 「あ、ほんとだ」  そこに示された名前は神宮寺ナツメだった。メッセージは単純な一文だけで、それ以外、何も書かれていない。    ――また来年の夏、会いましょう。    夏は終わっても、またやってくる。晴樹は一年の猶予の間に自分にとって夏とは何なのか、その回答を用意することに決め、少しだけ笑みを浮かべた。 「あれ? 何かいいメールだったんですか? もしかして彼女さん?」 「ち、違いますよ。変な誤解しないで下さい」  もしかすると晴樹の夏はまだ始まっていないのかも知れない。(了)
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