五月のある日

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 仕事部屋の窓ガラス越しに、中の様子が見て取れる。  まつりと、新しいスタッフである、唐立桃子さん(なんと十九歳!)が、真剣に机に向かっている。  美鈴がドアノブに手をかけようとすると 「だめです。いま取り込み中なんで。立ち入り禁止です。」  と、みつるが制した。  美鈴はあからさまに舌打ちすると、 「あんた、ここでなにやってんのよ。」  と訊いた。 「誰もなかに入らないように。見張り番です。」  と、みつるは答える。 「忙しいなら手伝えばいいじゃない。べた塗とか、消しゴムかけとか、なんかあるでしょ。」 「そんな簡単なものじゃないらしいです。素人が手を出さないほうがいいって。」  実は初日にちょっと手伝ってみて、あまりの不器用さに不合格認定をもらって叩き出されたのは、秘密のはなし。  みつるだって、付き合い始めたばかりの彼女、デートもしたいし、一緒にまったりした時間を過ごしたい。  けれど悲しいかな、状況がそれを許さなかった。  美鈴は 「わかった。また来る。」  と言って、家を出て行った。
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