かき氷

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 秋の訪れを少しも感じさせない、暑苦しい風。空は晴天。 「まだまだ暑いですわねぇ」  見上げて、額に汗を滲ませながらかき氷を作る、キッチンカーの店主に雑談を持ちかける。恰幅のいい体格にむっちりとした手で、手際がいいこと。 「え、ええ、そうですねぇ」  注文を受けた商品を出すまでの間に、客に雑談をされるとは思っていなかった様子の店主は、テキパキとかき氷を仕上げていく。  私だって、なんでこの店主に雑談なんかしようと思ったのかわからない。可愛い孫と大きな公園へ来られて、楽しくなったかしら。 「はい、かき氷お待たせしました」 「わーい!」  孫娘はめいっぱい背伸びし、手を伸ばしてかき氷を受け取ると、息子の座るパラソル付きのテーブル席へそろりそろりと向かう。  次に店主は、無駄のないテキパキとした動きで肉巻き串を作り始めた。  このまま涼しくなってきたら、かき氷はメニューから消えるんだろうかねぇ。はためく『氷』の旗を見つめた。 「11月くらいまでは出しますよ」  店主はにっこりと私を見下ろした。客の考えてることはお見通しということかしら。さすがは商売人ね。 「肉巻き串、お待たせしましたー」  その声を聞いて、息子が立ち上がり、キッチンカーへ駆け寄る。店主は肉巻き串を手渡しながら、 「お客さん」  と息子を呼び止めた。そしてちらりと私を見てから、息子にこっそりと耳打ちした。 「お母様ですかね。いらしてます」 「えっ……?」 「実はわたし、見えるんですよ」  息子は「信じられない……」といった顔で、私を見つめた。いや、店主の示した方向を見つめた。 「いや昨日家族で墓参りに行って、今日ここに来ることを話したんです」  息子は潤んだ目をごしごしと擦った。  店主は息子の言葉に優しく笑顔で頷き、次のお客の注文を聞いた。 「ママおかえり、かき氷、イチゴにしたよぉ!」  お手洗から戻った里美さんが「いいなぁ、ママ何にしようかなぁ」と、前にあるメニューを眺める。 「あらら。すっかり一緒に来ている気分だったわ。お兄さん、ありがとうね」  私はキッチンカーの店主にお礼を言うと、息子家族が座るテーブル席の、一つ空いた席にそっと腰を下ろした。  お盆が終わるまで、こうしててもいいわよね。 〈完〉
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