ありとニート

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 その翌日、良二は考えていた。いつになったら人間に戻れるんだろう。自分はよく頑張っている。みんなに信頼されている。だけど、それが自分のゴールじゃない。人間に戻って就職するまでがゴールだ。 「どうしたんだい?」  そこに、1匹のアリがやって来た。このアリは、生まれた時からアリで、ニートだった人間が変えられたのではない。 「どうしたら、人間に戻れるのかな?」  良二は心配そうな表情だ。両親は今頃、どうしているだろう。全くわからない。 「どうした? 人間に戻りたいのか?」 「うん。親に謝りたい。そして、家を支えるために働きたい」  だが、アリは不安そうな表情だ。戻れないと言うんだろうか? 良二は少し不安になった。 「うーん、どうだろう。それはお上の判断だから、どうなるかわからないよ」 「そっか・・・」  良二はがっかりした。その人たちはどう思っているんだろう。まだまだ頑張らなければ、元に戻れないんだろうか? 「このまま死んでしまうのか、心配で」  と、アリが肩を叩いた。良二を励ましているようだ。良二は少し嬉しくなった。 「大丈夫だって。君、頑張ってるから絶対に大丈夫だって」 「うーん、そうかな?」  ふと、良二は家の事を思い出した。オンラインゲームがまたしたいんじゃない。人間として仕事をして、家族と暮らしたいんだ。 「ある日突然、人間に戻されるんだって」 「へぇ」  果たしていつ、僕は人間に戻されるんだろう。良二はその日を楽しみにしていた。  その夜、クロアリさんのニート支援センターの本部では、話し合いが行われていた。そこには何人かの人間がいる。人間に戻していいアリを見極め、認められたら人間に戻すという。だがここ最近、そんな人は全く出ていない。 「今日は谷良二を人間に戻す。この子はなかなか頑張ってるから、人間に戻しても頑張れるだろう。反省してるし、人間に戻りたいと思ってるし」  今の所、人間に戻すのにふさわしいと言われているのが、谷良二だ。ずいぶん成長したし、人間に戻って仕事をしたいと思っているようだ。このまま人間に戻してもしっかりと仕事ができるだろうと判断した。 「うーん、確かにそうだな」  どの職員もそう思っているようだ。今回はこの男を戻すことで決定だ。 「よし、戻してやろう」 「はい!」  その声とともに、2人の人間がアリに変身して、アリ塚に向かった。良二を連れ出し、人間に戻すようだ。その事を、ここにいるアリは全く知らない。  アリ塚に入ると、そこには良二が寝ている。良二は今、何を思い浮かべているんだろう。家族と暮らし、就職する夢だろうか? 「寝てるな・・・」  1人のアリが笑みを浮かべた。人間に戻れるアリを見るのは、久しぶりだ。ここまでよく頑張ってくれた。人間になっても、頑張れよ。 「連れ出せ・・・」 「はい・・・」  その声とともに、良二は外に連れ出された。だが、良二はその事に全く気付いていない。  2人は良二を連れて本部に戻ってきた。まだ良二は寝ている。クロアリさんのニート支援センターの代表は、魔法服を着ている。これから人間に戻そうとしているようだ。 「ハッ!」  その掛け声とともに、良二は人間に戻った。だが、良二は全く気付いていない。  朝、良二は目を覚ました。だが、いつもと景色が違う。民家のようだ。今度はどこに連れ去られたんだろう。 「うーん・・・。ここは?」  と、良二は手を見て驚いた。人間の手に戻っている。まさか、人間に戻れたんだろうか? 「あれっ!? 人間に戻ってる!」 「働く気持ちが芽生えてきたから、人間の姿に戻れたんだ。感謝しろよ!」  職員は笑みを浮かべている。頑張ったから、人間に戻れたようだ。良二はほっとした。これで両親の元に帰れる。 「アリとして生きたこの時間、大切にしろよ!」 「はい!」  職員は本部の入り口の扉を開けた。これから僕の新しい生活が始まる。良二はワクワクしてきた。 「じゃあ、家に帰りなさい」 「はい。ありがとうございました!」  良二は玄関の前にやってきて、お辞儀をした。そして、本部を出ていった。ここがどこなのかは、すでに知れている。どうやって帰るのかはわかる。  職員は、その様子を温かい目で見ている。 「これから頑張ってほしいね」 「うん」  良二は帰り道を歩いている。ここから家まではそんなに遠くない。少し電車を乗り継いでいけば帰れるはずだ。  お昼前、良二の両親は家にいた。今日は仕事が休みだ。ゆっくりとしていよう。それにしても、良二は大丈夫だろうか? いつ、帰ってくるだろうか? そして、今度こそ就職活動をしてくれるんだろうか? 「ただいまー」  良二の声だ。まさか、帰って来たんだろうか? 母は玄関にやって来た。そこには、良二がいる。クロアリさんのニート支援センターから帰って来たようだ。まさか、こんなに早く帰ってくるとは。 「あら、お帰りなさい」 「よかった。すっかり見違えってて嬉しいよ」  父もやって来た。見違える姿になって、父も喜んでいるようだ。 「お父さん、お母さん、ごめんね。これから頑張るから」 「頑張ってちょうだい」 「うん」  両親はともに応援している。その期待に応えないと。良二は決意した。早速午後からハローワークに行かねば。 「じゃあ、支度をしてハローワークに行って来るね」 「それでいい。頑張れ。そして、早く仕事を見つけろよ」 「はい!」  良二は2階に向かった。だが、オンラインゲームをするからではない。ハローワークに行くためだ。両親はその様子を温かい目で見ている。  しばらくして、良二が戻ってきた。リュックを背負っている。ハローワークに行く準備ができたようだ。 「行ってきまーす」 「行ってらっしゃい」  良二は家を出て、ハローワークに向かった。これからが就職に向けての第一歩だ。これから頑張らないと。そして、就職しないと。  良二はその途中で、スーパーマーケットの前を通りがかった。今日もクロアリさんのニート支援センターはビラ配りをしている。お宅のニート、鍛え直しますをキャッチコピーに。
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