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 森の木々がギシギシと音を立て、森全体が風に揺れるように。莉亜はあまりの風の強さに思わず御神木の幹にしがみつくような格好で、風の強さから体を支える。なにかにつかまっていないと倒れそうなほどの風。  やがて風が通り過ぎ、森にはセミの鳴き声が戻ってくる。莉亜はつかまっていた御神木から体を離し、少年の姿を探しはじめる。  けれど、御神木のまわりをどれだけ探しても、少年の姿は見つからなかった。  ただ、御神木の根元にセミの死骸が一匹転がっているのを見つけただけだった。そろそろ祖父母の家に戻らないといけない。莉亜はため息をひとつつく。それから御神木の根元に転がるセミの死骸に向かって静かに告げる。 「素敵な夏休みをありがとう」  莉亜は御神木に背を向け、祖父母の家に向かう。こうして莉亜の夏は終わった。 (おわり)
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