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03.
「私は御神木にあいさつに来ただけ。この村に来たんだから」
「あいさつ?」
少年は莉亜の言葉を疑うような顔つきと目つき。
「本当はセミを捕まえようとしているんじゃないだろうな?」
「セミ?」
予想外の少年の言葉に莉亜は戸惑うしかない。たしかにセミの鳴き声は御神木のまわりから絶え間なく響いている。夕闇の中で。
「セミなんて捕まえるわけないでしょ。なに言ってんの」
「本当か?」
少年は莉亜を見つめる。咎めるような、警戒しているようなまなざしで。一方、莉亜の方はバカバカしく思えてきた。
「あのねえ、私は中学生なんだから、セミなんて捕まえて喜ぶわけないでしょ。そりゃ世の中広いからセミ取りに夢中になる女子中学生だって存在するかもしれないけど、それはものすごく例外的な存在。わかった? 子どもじゃないんだからさ、バカじゃないの」
そんな莉亜の言葉に、少年はさすがに怒りを覚えたのだろう。
「うるさい、今すぐこの森から出ていけ!」
そんな言葉をぶつける少年に、莉亜もまた怒りを覚える。
「えらそうに。この森はあんたのものでもなんでもないのに」
そんなことを言い争っているあいだにも夕闇が森に迫りつつあった。暗くなるまでには戻ると約束した。少年に言いたいことはいっぱいあるけれど、莉亜は祖父母の家に戻らなければならない。
「むかつく!」
莉亜は少年にそう言い捨て、御神木の元を去った。
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