04.

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04.

 莉亜は何度も少年の姿を思い浮かべた。御神木のそばにいた少年の姿を。夕食のときやスマホで友達とメッセージをやり取りする合間、それに眠りにつく前、いらだちとともに。  あの少年は小学生には見えなかった。けど、高校生でもなさそう。  ということは私と同じ中学生なのだろう、きっと。けど、中学生にもなって、あんなにセミに一生懸命になるなんてまったく子どもだ。そりゃ私のクラスの男子たちだって子どもっぽいけど、さすがにいまだにセミ取りに夢中になるほど子どもっぽい男子はいない。  そんなことを考えているうちに莉亜は眠りに落ち、気がつくと朝。祖父母の農作業を手伝い、それから家から持ってきた夏休みの課題を済ませた莉亜は、そのあたりを散歩してくると祖父母に告げ、家を出る。太陽の日差しが照りつける。  田畑のあいだを抜ける道をずっと歩いているあいだじゅうずっと、セミの鳴き声が響く。まぶしいくらいに輝く、田畑に茂る稲や野菜の緑色した葉っぱ。青い空の向こうには白い雲。午後になれば入道雲になるかもしれない。汗が流れるけれど、心地よいくらいの汗。  田畑と森くらいしかない田舎だから、散歩といっても行く先はない。コンビニも図書館も村の中心にあるから。そろそろ祖父母の家に戻ろうかと考えた莉亜の頭に御神木の姿が浮かぶ。昨日は少ししか過ごせなかった。だから、また行ってみようと。
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