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08.
「ねえ、あなたスマホ持ってないの?」
「スマホ?」
少年はまた不思議な表情を浮かべた。からかっているのではなく、やっぱり本気でスマホの存在を知らないようだ。
「私は元の街に戻らなきゃいけないの。そのとき、あなたとどうやって連絡取るの? 私は一週間しかこの村に居られないんだから」
「一週間……」
莉亜の言葉に少年は悲しげな顔で困惑するばかり。
「だから、明日にはこの村を出て行くの。だから連絡先を交換しようって思ったの。スマホ持ってないの? 今どき。連絡先を交換すれば、スマホでメッセージやりとりできるでしょ」
莉亜の言葉にやっぱり少年は悲しげな顔を浮かべるばかり。
「そう、それならお別れしなきゃいけない。うん、どっちにしろ、お別れする運命なんだよ、おれたちは」
「お別れ? どうして?」
莉亜の言葉に少年はなにも理由を語らないまま。
けれど、やがてきっぱりと莉亜に告げる。
「さようなら、君と過ごせて楽しかったよ」
御神木の根元に莉亜と並んで座っていた少年は立ち上がり、御神木の裏側に歩き出す。姿を隠すみたいに。
「ねえ、ちょっと待ってよ……」
莉亜は慌てて立ち上がり、少年のあとを追って御神木の裏側にまわり込む。けど、少年の姿はどこにも見えなかった。セミの鳴き声が森の中に響くだけだった。夕闇が森に迫っていた。
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