09.

1/1

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

09.

 翌日、莉亜が元の街へと帰る日がやってきた。午後の普通列車に乗らなきゃいけない。 「ちょっと御神木にあいさつしてくる。お世話になりましたって」  朝食を食べ終えるや否や、莉亜は祖父母の家を飛び出す。  このままあの少年と別れるのはいやだ。せっかくこの村で出会って、楽しく一週間を過ごせたんだから……。せめてお礼だけでも。  御神木のところにたどり着くと、あの少年がいた。けど、青白い顔を浮かべて、ひどく体調が悪そうにしている。 「大丈夫?」  莉亜の言葉に少年はうなずく。 「うん。君が来てくれるんじゃないかなって気がして」 「そう。私もあなたがここにいるんじゃないかなって思って」  莉亜と少年は見つめ合う、やがて少年が口を開く。 「君と出会えて本当によかった。地上に出てきた甲斐があった」 「地上に出てきた?」  具合が悪いあまり、変なことを口走ったのだろうか?  心配する莉亜に少年は微笑みかける。 「これが本当に最後だよ、ありがとう。この一週間楽しかったよ」 「ねえ、なんで最後なの。連絡先を教えてよ……」  青白い顔の少年に莉亜がそう言った瞬間、強い風が吹いた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加